鈍いのは、オレか君か。 Candy pop 「水戸くんおはよー」 最近、この一言が聞きたくて朝から学校へ行くようになった。 隣の席のさんは、いつも柔らかく笑う。 それが今、1番の癒しになってて心地よかった。 「おはよ、さん。今日はどうだった?」 夏休みが明けてから、さんは少し変わって メガネをはずして、髪型を少し変えて それだけで、ずっと可愛くなってしまった。 故に 「…んーなんか、手紙入ってた」 急に注目を浴びてしまって 呼び出しの手紙が入ってたり、昼休みに呼び出されてりしていた。 オレは、夏休みの前からずっと ずっと、かわいいって思ってたけど。 「…水戸くん?どしたの?」 「え、や、どうもしねぇよ?あ、今日は英語の教科書持ってきた?」 「持ってきたよ!ごめんね。昨日は見せてもらっちゃって」 「いいよ。今度オレ忘れたら見せてもらうし」 「うん!いつでも忘れていいよ!!」 そういって、2人で小さく笑いあう。 本当に 本当に可愛いし 好きだなと思う。 まぁ、好きだなんて絶対言えないけど。 (何言ってんだか、こんなはみ出しモノが) 自分のことをこんなに自虐的に見ることはあまりなかった。 だけど、彼女が自分とか正反対だということはわかる。 だから、好き、だなんて、言えるわけがない。 「…そーいやさん、昨日告られたヤツには返事したの?」 告白されることに慣れてないさんは、いつもオレに相談をしてくる。 オロオロしてどうしようって頼られるのも悪くない。 それに、どこの誰がさんを狙ってるのかもよくわかるし。 「昨日…うん。断った。だって本当に知らない人だったし」 って言っても男の子の知ってる人とかもあんまりいないんだけど… と、さんは笑った。 さんはいきなりモテ出した理由をイマイチ把握してなくて 本人は「これがモテ期ってやつ!?」とか言ってて 正直、変な男に引っかからないか気が気じゃない。 「…洋平、最近アメばっか食ってねぇ?」 放課後。 体育館前で花道の練習を覗いてた時に 高宮に言われてコレ?と咥えていたちゅっぱちゃっぷすを指差す。 その会話に大楠と忠も入ってきた。 「オレも思った。なんで?」 「んー…ちょっと禁煙」 「禁煙!?」 「どーしたんだよ」 「別に、どーもしねぇよ」 ちょっと、タバコの匂いが苦手だって言ってたから。 少しだけ止めようかって気になったから。 気づいたらタバコの代わりにアメばっか食ってた。 (重症だな…) 体育館では、花道が晴子ちゃんに必死になって話かけるのが見える。 自分もあのくらい積極的に動けたら、何か変わるのだろうか。 「あ、ちゃん」 大楠がおーいと手を振る。 そっちを見ると、さんはこっちに気づいて 隣にいた男に頭を下げてこちらに走ってきた。 (…今朝入ってた手紙のヤツか…?) 「大楠くん!久しぶりー」 オレのところにこいつらはよく集まるもんだから さんも顔なじみになって、気づいたら簡単に輪に入ってた。 普通は女の子はびびって入ってこないと思うんだけど。 「あ、水戸くん」 「おー、」 「あの、あのね」 ててて、と近くまで寄ってきてこそこそと耳元でさんが喋る。 身長差があるから、少し肩を下げた。 「今。朝の手紙の人といたのね」 「うん」 「断ったんだけど」 「うん」 「お友達になってくださいって言われちゃったの」 「…ふーん…」 「どうしよう?そんなこと言われても…」 困った顔をして、じっとこちらを見る。 理性がぶっ飛びそうになる。 今どんな顔してるのか分かってないのか? とりあえず気持ちを落ち着かせて 「困るなら、断わりなよ。友達になってくださいって話も」 「…なんて言って、断るの?」 「…好きな人がいる…とか…」 「…好きな…人…そっか!うん!言ってみる」 「…さん、好きな人いるの?」 「えー…えへへ。いるよ」 じゃあちょっと行ってくる!とさんは顔を少し赤くして 大楠たちに手を振って走っていった。 オレはというと、 カチッ 封印していたライターを手に取った。 「ちょ、洋平!禁煙はどーしたよ?」 「やめた」 「ていうかココで吸う気か!?体育館の前だぞ!?」 「………」 「つうか、ちゃん可愛いよなぁ」 大楠がぼんやりとさんの走り去っていった方を見たまま呟く。 それが面白くなくて、ライターをカチカチと鳴らす。 「でもちゃん好きな人いるっつってたよな」 「ああ、オレ聞いたことある」 「マジかよ!誰?!」 「いや、誰、とは教えてくれなかったんだけど…」 「はぁ!?なんだそれ」 「ヒントで、最近よくちゅっぱちゃっぷす食べ、てる…人…」 全員が「え?」という顔をして いっせいにこっちを見た。 かく言うオレも、え?という顔で固まってしまった。 「…居た」 「は?」 「え、お前だろ?洋平」 「何がだよ」 「ちゃんの好きな人だよ」 「アメ食ってただけじゃねぇかよ」 「ちゃんと仲良くて 最近アメ食べだしたヤツったらお前しかいねぇよ」 「…まさか」 「つうか、お前、気づかねぇのかよ?」 「何が」 「お前と喋るときのちゃんの顔」 「…はぁ?」 「もういつもの3割り増しに可愛くなるんだぜ?」 カツン、 ライターをその場に落とした。 そして さんの走っていった方向へ走りだす。 (さん、オレの友達怖くねぇの?) (なんで?大楠くんたちいい人じゃない?) (や、まぁそーだけど…) (それに、水戸くんの友達だから) (水戸くんの友達だから、絶対いい人たちだって思ったよ?) 気づけば、さんはオレに絶対的な信頼を寄せてくれてた気がする。 「さん!」 姿が見えて、思わず名前を呼んでしまった。 前には、男の姿が。 「え、…水戸くん?」 「…っ…はぁ…さっきの」 「え?え?てかどうしたの…」 「断れた?」 「…え、…っと…今ね」 「お前1年の水戸だろ?さんの何?」 「オレ?オレは」 「え、…え?」 「さんの、好きな人。だけど」 「えっ…」 「はぁ?何言っ…」 「何で知ってるの水戸くん!?」 「え…っマジかよ」 「と、言うことで先輩」 ぐい、とさんの肩を抱いてくるり背を向けた。 さんはオレの腕の中で混乱中。 え?え?と小さく呟きながらチラチラとオレの顔を見上げる。 にこり、笑って キョロキョロと周りを見渡す。 「さん」 「は、はい…」 「オレと、付き合ってください」 「!!!!」 返事を聞く前に、腕の中にいる彼女にキスをひとつ落とした。 聞かなくても、答えはたぶん…。 (みっ水戸くん…今…今…きっ…)(ああうん。びっくりした?) (いや、ていうか…えーと…はい!)(…?…ああ返事か。ありがと) 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 甘い洋平。めずらしー |