弱った君を 独り占め






love & sick






日曜。
昼下がり。
天気もいいのに

暇すぎる。



テレビももう見尽くしたし
かといって、今から誰かと遊ぶ気にもならないし
少し外にでも出てみるかと買ったばかりのサンダルを無意味に履いて
近所をぐるりと散歩した。



(…油断した…)



もう夏が近づいているのをすっかり忘れていて
日差しは強いは暑いはサンダルで足が痛いわでもうヨレヨレ。
我慢も限界で目に入ったコンビニに入った。


涼しい…
思わず顔も緩むほど。
欲しいものはまぁ買うとして、
しばらく涼んでいこうと雑誌コーナーに向かう。
新しい表紙の雑誌を手に取りパラパラとめくる。

すると、お客様ご来店。
むわっとした風が入る。

気持ち悪くて、早く閉めてくれとドアの方を向くと
そこには見慣れた人物の意外な姿があった。


「あれ!?水戸君?」

「あ…?」


そこにいたのは
いつものビシっと髪型決めて学ラン着てる水戸君じゃなくて
髪の毛下りてて、スウェットにTシャツとカーディガン羽織ってる
完全プライベートな水戸君だった。


「完全ラフなカッコだね。珍しい」

「よくオレだってわかったね?」

「最初は目を疑ったけどね」

あはは、とお互い笑った。
そのあとに水戸君は盛大な咳をした。

「ちょっと、大丈夫?風邪?」

「あー平気平気。飯食って寝りゃ治るよ」

「ええ!?ていうか熱とかは?あんの!?」

「さぁ、ウチ体温計ないから」

「ちょっと、ごめん」

そっ、と水戸君の髪を掻き分けて額に手を置く。
じんわりと熱が篭る。間違いなく平熱ではない。

「ちょ、普通に熱あるじゃん!え!?ご飯ってまさかコンビニのご飯食べるの?」

「作るの面倒だし」

「だ、ダメだよ!ダメダメダメ!治んないよ!?」

「…じゃー…」







、作りに来てくれる?










「まぁ…汚いところで悪いけどあがって」

「…お・お邪魔…シマス」


成り行きでまさか水戸君のお家にあがることになるとは思わなかった…
帰りにちょっとだけスーパーで買い物をしてその荷物をドサっと床に置く。
ちらっと水戸君の方を見るとさっきより息が上がってる気がする。
熱があればそりゃ辛いよね。
あたしなんて風邪引いたら一週間ベッドから出ないし。


「水戸君、私あとやるから休んでていいよ」

「ん、…わり」

「いいよ。水戸君と私の仲じゃん!」

なんの仲だよ。と突っ込まれたら困るけど
水戸君は少し笑って、ゆっくりと奥の部屋へ行った。



人様の家の台所って緊張すんなぁ…
とりあえず、お粥でしょ。梅干買ったから梅粥にして。
あとは…あ、卵発見。あーだし巻き卵作りたいなぁ
でもなぁ、ダシないよなぁ。いりこだしとかあれば…

1人暮らしの男の子の家に、いりこだし、とか、かつおだし、とかあったら
それはそれで驚くけれども…
ごそごそと棚や引き出しを開けてみる。
すると…見慣れたパッケージ。世の奥様方が重宝してるいりこだし発見!

「…うわ、あったよ…あ、みりん。え?薄口しょうゆ?」

次から次に出てくる調味料。
これはもう間違いない。




水 戸 君 彼 女 い る で し ょ コ レ !




ちょっとあたし場違いもいいとこじゃない!?
ていうか彼女なにしてんだよ!

1人で心の中でわめき散らして
シンとした水戸君の家の台所で
コトコトと鍋がお粥を作ってる音だけがする。



彼女が、いるのかぁ。



妙に悲しくなって、玉子を溶いてた手が止まる。

そりゃいるよね。
だって水戸君カッコいいし。

気持ちを切り替えて、手を動かす。
今だけ。今だけ独り占め。


彼女さんごめんなさい!!!
(でも今いないアンタも悪い!!!)





















「水戸君、起きてる?」

ドアを開けて部屋を覗き込む。
水戸君が寝てる部屋には今初めて入った。
物珍しくてついキョロキョロとしてしまう。

「ん…軽く寝てた。あ、できた?」

水戸君は目をこすってゆっくりと身体を起こす。
いつの間にか水戸君はTシャツ一枚になってた。

「ダメだよそんな薄着で」

「だって暑くね?」

「汗かかないと。で、食べないと」

小さなテーブルにお粥とだし巻き玉子をのせる。
それを見て、水戸君が「おー」と小さく歓声をくれた。

「食欲はある?お粥まだあるから」

「ん、食えるよ。サンキュ」

「えー…と、じゃああたしは…」

「え、帰んの?」

「え…う、うん」

「なんか用事あんの?」

「いや、ないけど」(そういえば散歩してただけだったアタシ)

「じゃあまだいてくんない?」

「……そ、そこまで言うなら」


最後の一言にやられた。
やめてよその笑顔と台詞!それで女10人は落とせる。

水戸君は一口食べるたびに「おいしい」と言ってくれた。
嬉しかったけど、何回も言われるとさすがに恥ずかしい。

水戸君は、作った分のお粥を全部、食べてくれた。



「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


カチャカチャとお皿をまとめる。
今のうちに洗ってしまおうか。


「あ、いいよそれ置いといて」

「そーいうワケにもいかんよ。後片付けまでが料理ですから」

「はは…いいね、嫁にしたい」

「は!?…何言ってんの!!ほらちょっと寝たほうがいいよ」


それだけ言って、部屋のドアを閉めた。
顔が熱い。



「もー彼女いるくせに」って言えなかった。
なんかあの空気を自ら壊すのは嫌だった。

居心地がよくて、彼女になって気がして。


(今頃好きになっても遅いっての)

























「水戸君?洗いモノ済んだから、そろそろ」

「…、ちょっと」

布団の中から腕だけがにゅっと出て手招きをされた。
首をかしげながら水戸君の近くに座った。

「なに?」

「いっこ、質問な」

「…?? うん」

「もし、今日会ったのがオレじゃなくても飯作りに行ってた?」

「…? どゆ意味?」

「たとえば、今日あのコンビニで会ったのが風邪引いた花道とかだったら」

「………」

「花道に飯作りに行ってた?」


熱い手が、私の手を握った。

やめて

離して



「か、彼女、今日帰ってこないの?」

「え?」

「彼女が、今日彼女が水戸くんの家にいたら、私にご飯作ってとか言わないよね?」

「え…?…?」

「水戸くんずるい…っ」


ぼたっ、涙が落ちる。
気づかなかった、私泣いてたんだ。



「水戸君だから来たんだよ!」



水戸君の熱い手に引き寄せられる。

気づいたら、腕の中にいた。


私は、息が止まりそうになった。






「水戸く…っ」

「今のは、いい風に解釈していいんだよな?」

「え?」

「今の、答えは オレを好き って解釈でいいんだよな?」

「いや…でも彼女…!」

「いないよ。彼女」

「ウソだぁ!だって!調味料!」

「調味料?」

「男の1人暮らしで薄口しょうゆから本だしまで揃ってるってありえな…」

「だってオレ料理するよ?」

「へ?…だって…さっき面倒って…」

「身体ダルかったら面倒だろ?」

「じゃあ…あれ水戸くんの…?」

「オレ料理ウマいよ」


(今度泊り来てくれたら、作るよ)


(耳元でささやいた!卑怯!!)





















水戸君の作ったご飯は想像以上に美味しかった。

(ダメだ、追い越される前に料理の腕磨かなきゃ…!!)




end
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長くなった…分けようと思ったけど
どこで分けたらいいのかわからず。すみません。