あなたに会いたいだけなんだけど。 Baby Don't Cry わたしの彼氏は芸能人。 …ではない。 が、 いつも、忙しくって 周りには人がいっぱいいたりする。 「…はー…」 「…?どしたの?」 携帯を見てため息をついていると、繭が隣から声をかけてきた。 「ん?これ見てがっかりしてたの」 持っていた携帯を、繭のほうに向ける。 携帯画面には『沢北 栄治』という差出人と 『ごめん!日曜練習になった!!!』というメール。 「あー…なるほどね。でもしょうがないじゃない?」 「しょーがないのはわかるんだけどさー…」 なんでメール? クラスだってそんなに離れてないし? そりゃ朝も昼も夜も練習で? 忙しいし、疲れてるのくらいわかってるよ。 知ってるけど。 「謝るときくらい時間割いて会いに来いっての!!!」 「ちょっと落ち着いて…」 よしよし、と繭が私の頭をなでる。 少しキュンとして机に突っ伏した。 ちらり、窓から外を見ると体育館が見える。 昼休みなのに、体育館には人だかりができていた。 栄治はきっと練習してるんだろうなぁと ぼんやり思う。 きゃあきゃあと騒ぐ女の子の甲高い声が耳についた。 栄治と付き合ってるのがバレて以来、 あんまり体育館に行かなくなった。 居心地が悪いのもあるし、バスケ部に迷惑かかってもいやだし。 「…あーあ、栄治に会いたいなぁ」 ぽそり。心の中で呟いたつもりだったんだけど 口からも出てしまっていたようで、聞いていた繭が少し笑った。 「今日、放課後に見にいこっか?」 「え?」 「バスケ部だよ。たまにはいいじゃん」 「…いいかなぁ」 「だってこないだ深津さんに言われたよ?は見に来ないのかピョン。て」 「ぷっ、そんな忠実に再現してくんなくていいよ」 トゲトゲしていた気持ちが、少し丸くなって やっぱり栄治に会いたいから 放課後、少し怖いけど体育館に行く決意をした。 放課後。 やっぱり人だかりができている体育館。 昼よりも人が多い気がした。 その人だかりの後ろの方から、こっそり体育館を眺めた。 「なんか前よりも人多くなってない?」 しばらく練習を見に来ていなかったは人に多さに 周りをキョロキョロと見回した。 「いやだってバスケ部の人気ってすごいんだよ」 スタメン以外の人も人気あるし。 と芸能レポーターのように繭が説明をしてくれた。 「ていうか全然見えないんだけど」 背伸びをしたり、しゃがんでみたり しかし見えるのはたくさんの女の子たちの頭だったり 足だったりスカートだったり、体育館の床だったり… 肝心のバスケ部もとい栄治は微塵も見えなかった。 「…んー、前行く?」 同じく繭も同じ行動を繰り返し 見えなかったらしく、その場に立ち尽くした。 「いやー…いいわ。教室行く」 「教室?」 「ん、今日は練習終わるまで待っとこうかなぁと思って」 「そっかぁ。今日バイトなんだけど…時間まで付き合うよ」 「ん、ありがと。行こう」 チクチクチク。 おかしいな。あたし彼女なのに 彼氏の姿見るのにこんなに苦労するの? …おかしいなぁ。 小さなイライラ。 しょうがないっていう気持ちと おかしいなっていう気持ち。 無意識にイライラを気持ちの奥に沈めて 栄治を、待つことにした。 外はぼんやり薄暗くなって、は教室に1人ぼんやりとしていた。 1時間ほど前に繭はバイトへ行ってしまって ひたすら外を眺めて、時間が過ぎるのを待った。 「…もうそろそろ練習終わったかなぁ」 カタン、と立ち上がり は体育館へ向かった。 体育館に群がる人数もだいぶ減っていて、中を覗くことができた さきほど練習が終わったらしく、部員同士で喋ったり 自主練習をしたり、散り散りになっていた。 「お、」 「あ、河田先輩」 こいこい、と手招きをされたので はドキドキしながら、靴を脱いで体育館へ入った。 「久しぶりじゃねぇか?見に来るの」 「あーはい。色々忙しくって…あれ深津先輩は?」 「深津は監督とミーティングしてる。あ、沢北は…さっきまでいたんだけど」 「…えー…どこ行ったんだろ。せっかく待ってたのに」 きょろきょろと見渡すと、確かに栄治の姿はない。 まさか今日に限ってさっさと帰ってしまったんだろうか? しゅん、と心が一気しぼんでしまって はがっくりと肩を落とした。 「…河田先輩、ちょっと今日は帰ります」 見て明らかにへこんでいるのがわかる。 河田はグリグリとの頭をなでる。 「大丈夫か?沢北には明日プロレス技かけとくからよ」 「あはは。お願いします」 ペコリ、と頭を下げては体育館を出た。 はぁ、とため息をついたら涙も一緒に出そうになって それを必死に堪えてまた息を吸った。 底のほうからふつふつと怒りが沸いてくるのがわかった。 でも、そんなのタダの八つ当たりだし… と心の中で葛藤いていると、前から声がした。 「?」 呼ばれた方を見てみると 栄治と、数人の女の子たち。 女の子たちは、「ゲッ、出た!」みたいな顔してこちらを見ていた。 栄治の手には、ピンクや黄色やキレイなラッピングされたモノが たくさんあって。 ただのあたしの被害妄想かもしれないんだけど 寂しさと苛立ちでもう限界だった。 「…っ…栄治なんかもうっ…きらい!!!!!」 言い放って その場から全速力で逃げた。 だってだってだってだって 好きなのに好きなのに つらくてつらくて仕方がなかったんだもの 遠くで、栄治の声がした。 だけどあたしは、聞こえないフリをした。 → 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 続きますー |