まだ、伝えてはいないけれど 叶えたい願いはこれだけ。 願い事ひとつだけ 「・・・なによ」 幼なじみのが朝から気になって仕方がない。 理由はわかってる。 「・・・別に」 朝、教室に入る前に呼び止められてなんか言われてた。 隣のクラスの男に。 「今朝・・・」 「しっ!小池来たよ」 あの男のこと聞こうと思ったら、邪魔が入った。 隣の席のは、もう前を向いてた。 肘をついて、の横顔を眺める。 ほんとは今朝の男との話の内容は全部知っていた。 『さん、今日放課後屋上来てくんない?』 だいたい何の誘いなのかは想像が付く。 昔から、ずっと昔から一緒にいたこいつは いつか、違う奴の所に行くのだろうか。 そんなことをぼんやり考えながら いつもより、寝付きが悪かったけれどゆるゆると 夢の中へ潜った。 授業も終わり、みんなガタガタと席を立ち上がる。 いつもは誰よりも先に教室を出て部活に向かうけれど ちらり、を見た。 は、いつもすぐに立ち上がる自分が まだ座ったままなのが気になるらしく かた、と音がした。 が自分の机の近くまでやってきた。 「楓、部活行かないの?」 「ん・・・行く」 「もうHR終わったよ?」 「・・・おめーは」 「え?」 「行くんか」 「あー・・・」 少しの沈黙。 は気まずそうに目をそらす。 なんで目ぇ逸らすんだ あいつのことが 好きなのか あいつと あいつとつき合うのか? 「行くな」 「へ?」 隣の席のの方を向く は戸惑った顔をして下を向いていた。 かわいい。 ずっと思ってた。 女相手にこんなこと思うのは絶対だけなのに 取られて たまるか。 「おい」 「へ?」 「行くな」 「え、や・・・でも」 「いーから」 ぐい、の手を引く。 もう手なんか何十回も繋いだことがあるのに は少し繋ぐのをためらう。 「体育館、来い」 「いや、でも人としてやっぱ呼ばれたら行かないと、さ」 「行って、どーすんだ」 「へ?どー、するって」 「あいつに・・・もし告白・・・」 「は!?告白?え、そーいう話なの?」 「・・・ふつー、そーじゃねぇの」 「え・・・そーなのかな」 しん、となんとなく静まってしまう。 逃がすまいと流川はの手を離さない。 (つうか何の話だと思ってたんだ・・・) 「か、えで」 「ん」 「・・・逃げていっかな」 「は、」 「だってそんな話なら行きたくないし・・・」 ぎゅう、と手を握り返されて逆に驚いた。 座っている自分と、立っている。 に見下ろされるのは変な感じだった。 それでもそんなに差はない。 このまま手を引いて抱きしめてしまえたらいいのに。 「楓の練習見に行ったほうがいいや」 にこ、とが笑う。 この笑顔を何回見たかわからないけれど 大好きなんだ。 ずっと隣で笑っててほしいのに 「・・・行くぞ」 がた、と立ち上がる。 少し練習には遅刻してしまったけれど 俺だって必死なんだ。 「楓、手・・・離してよ」 「いやだ」 「ちょ恥ずかしい!」 「どーせ誰も見てねぇよ」 彼の願いが叶うのは、もう少し後の話。 (人いたよ!見られた!!)(ちっ、うるせー) (もーあんたと噂になると面倒くさいんだってば!!) 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 |