今日は何一つ出来なかったのに出来たという。


お前がいねぇと嘘ばっかり。






嘘吐きダーリン






フラフラしながら、楓に手を引かれて帰ってきた我が家。
お母さんがびっくりした顔して玄関に来た。

「ちょっとどうしたの!?楓君ごめんなさいね」

「いえ、たぶんこいつ風邪…」

「どーせギリギリまで黙ってたんでしょアンタは!!」

さすがお母様よくご存知で。
とりあえずリビングまで楓に連れて行ってもらって
そのままソファーに身体を預ける。

「はい、体温計。熱測ったら教えなさいね」

と、体温計を渡された。
そのままお母さんはパタパタとなにやらキッチンへ消えていった。
楓はそのまま隣でじっとこっちを向いてた。

「早く測れ」

「うん…」

ノロノロとボタンをはずし、体温計を挟む。
いつもは楓が隣に居れば「ねぇ」とか「あのさ」とか
色々と話を始めるのだけれど
今日ばかりは頭がぐらぐらで目線も定まらない。

そのまま無言でいると、電子音が鳴った。
体温計を見ると"38.7"と表示してあった。

「…はちど…ある」

「…高ぇ」

「あはははーいつ振りだろこんな熱出たの」

「ガキん時はしょっちゅうだっただろーが」

「そうだっ…け?」

はぁ、と大きく息を吐く。
軽口を叩いてはいるけれど、辛さは目に見えていた。

「、掴まれ」

流川はのそりと立ち上がり、椿にかぶさるように近づき
椿の手を自分の首元に寄せる。

「楓…ナニ…?」

はチカラはもうほとんど入らなかったけれど
ぎゅ、と襟元に捕まった。
それを確認すると、流川はがばっとを抱き上げた。

「うわっ!楓何してんの!」

「暴れんな、部屋連れてく」

「いやでもちょっとコレどうなの」

「歩くのもつれーんだろーが。じっとしとけ」


さっきからことごとく見破られ、はまた黙って流川にしがみつく。

お母さんに見られたら恥ずかしくて死んじゃうなぁ…
トントントン、階段を上がる音がする。
そして楓は自分の部屋のように私の部屋へ入った。


「ありがと」

そっとベッドの上におろされる。
このまま寝てしまいたいけれど、自分の格好と畳まれた着替えを見て
今から着替えなければならないのかとため息をついた。

「着替えさせてやろーか」

「ばっ、いいわよ!」

「じゃあちゃんと出来るか見ててやる」

「ただのエロじゃん!!」

「いいから早く着替えろ」


そんな言い合いをしているとコンコン、とノックの音がした。
返事を待たずに、部屋のドアが開く。

「まだ着替えてなかったの?
 ほら、うどん作ったから着替えて食べて薬飲みなさい」

と、湯気のたった小さな土鍋をテーブルの上においた。
その横には妙にカラフルなカプセルの薬がおいてあった。

「薬飲まなきゃダメ?」

「あんた高校生にもなってまだそんなこと言ってるの?
 楓君に笑われるわよ?」

「おめーまだ飲めねぇのか錠剤」

「うるさいな」

「楓君も、練習後だし疲れたでしょう?
 お家には連絡してあるけど一度、帰ったほうがいいわね」

もう遅いし、と付け加え流川に帰るよう促す。
すると、少し躊躇しつつも楓はお母さんに向かってお辞儀をして部屋を出た。
少し、寂しくなったけどしんみりしてるヒマもなく
お母さんが早く着替えなさい!と急かす。
しぶしぶ返事をして、着替えてうどんを食べて薬を飲んだ。

ごろり、とベッドに寝転んでウトウトとしてきたが
はっとしては携帯を手にメールを打ち始めた。

『明日は、起こしに行けないからがんばって起きてね』

毎朝流川を起こすのが日課なのだが、
さすがに明日は無理だから。
すると、聞きなれた音が流れてピカピカと赤色のランプが光る。

『了解』

楓からのメールは大概一行。
慣れてるから気にもしないけれど

(了解って…大丈夫かなぁ)

心配しつつも、身体も限界では携帯を握ったまま眠りについた。







***







「、楓君来てくれたわよ」

夜、お母さんの声がしてドアが開く。
すると、制服のままの楓でそこにいた。
私はというと、風邪もすっかり治りベッドに座り楓を出迎える。

「寝てなくていーんか」

「もう元気元気☆熱も下がったし!」

流川は無言でのベッドに座り、の額に手を置いた。
ひんやり。流川の手が冷たい。

「楓、手冷たい」

「外はまださみぃ」

「そっか。大丈夫?楓が風邪引かない?」

あたし手、温かいんだよ。
と言っては額に当てられた流川の手を自分の手の体温で包む。

「いつもは、あたしの方が手冷たいのにね?」

ふふ、と、流川の方に笑顔を向ける。
たかが風邪とはいえ、弱ったを見るのは心配で
隣に座って他愛のない話をしてくるを見て流川は安堵の息をついた。


「今日どだった?朝起きれた?」
こくん。流川は無言で頷いた。
(うそ。完全に起きれなくて学校にも遅れた)


「部活は?まぁ、言われなくてもそれは行くよね」
こくん。流川はまた頷いた。
(行ったは行ったけど、シュートいつもの半分も入らなかった)


「あたしが、いなくて寂しくなかった?」
こくん。やっぱりとりあえず頷いた。
(これもうそ。寂しくないはずがない)


「嘘吐きだなぁ楓は」

あはは、と笑いながら握ったままの手をぶんぶんと振った。

「なにが」

「…嘘でしょ?」

「嘘じゃねぇ」

「ふーん」

ニヤニヤしながらこっちを見る。
なんか見透かされてるのが妙にムカついた。

「ホントに治ってんだな」

「え?風邪?だから治ってるって…」

握っていた手を握り返されて、反対の手は頬に添えられていて
そのまま、唇を塞がれた。

昨日のキスとは違う。
長い長いキス


「んぅ…ッ…!」

病み上がりに容赦のないキスだった。



「やっ…や!ちょっと!!」

「もう治ったんだろーが」

「また引く!!!」




君がいないと何もかもうまくいかない。




でもそんなの知られたくなくて




嘘吐きになってしまうから











いつでも隣にいて。






end
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嘘吐きハニーの続きみたいなカンジです。
流川よく喋るー