少し笑って抱きしめられた。 それだけでもう。 ありきたりロマンス ゆっくりと目を開ける。 え、なんで私寝てるんだっけ? 頭を動かすと少し痛みが走った。 身体は重たくて動かせなかった。 (あ、そうか階段…) 見事に階段から転がり落ちたことを思い出す。 恥ずかしいやら申し訳ないやら…。 記憶が少しずつ繋がって、さてどうやって帰ろうかと考えたときに ガラっと勢いよくドアの開く音がした。 (わあ、誰か来た!なんか気まずい…) なんて思ってたら簡単に自分の周りを囲っていたカーテンが開いた。 見たらそこには楓が立ってた。 「えっ、楓?」 「階段から…落ちたって…」 「あ、ああ。落ちた落ちた。でも元気だよ?」 と、無理やりに身体を起こした。あちこちが痛い。 でも悟られないように、起きたつもりだった。 楓はベッドの横に置いてあったイスに座りじっ、とこっちを見た。 「無理すんなどあほう」 「してないってば」 「…」 「なに…」 返事をした瞬間に、楓の腕に捕まった。 俗にいう、抱きしめられた状態になった。 「かっ…か…なにして…ちょ…っと!?」 「どあほう」 小さい声で楓が呟く。 心なしか、少し声が震えているようにも聞こえる。 「…心配させんな」 「あ……ご、めん…」 ぎゅう、とチカラを込めてさらに抱きしめられた。 朝、寝ぼけて抱きしめられたことがあったけどそれとは違う。 さらに心臓がフル活動でなんかもう痛い。 「か、えで…も、大丈夫だから…はなして?」 「いやだ」 「…いやだじゃなくて…」 「おめー離したらまた逃げんだろーが」 「逃げないよ」 「こないだ逃げた」 「あ…あれは…ちょっと…」 「ちょっとなんだ」 「は…恥ずかしくて」 「なにが」 「…う、うるさいな色々!いいから離して!」 「絶対いやだ」 「…なんで!」 「もうはなさねーって決めた」 さっきからときめく台詞連発で もうそろそろ心臓のほうもヤバイんだけど 流川さんわかってるんですか? 「楓それどーいう…」 「好きだ」 「は!?」 「オレはお前が好きだ」 「ええ!?」 「がいうまで言わないつもりだったけどもう無理だ」 「なにそれ!」 「はおれのもんだ」 「!」 思ってたことと同じことを言われて正直びっくりした。 好きだと言ってくれて本当に嬉しいと思った。 「おめーは」 「へ?」 「おめーはどうなんだ」 「あ…あたし!?」 抱きしめられた腕の力は緩むことはなく 本当に逃げられなくて 息をするのが上手くいかない 唇も乾いてて上手く喋れない。 だけど 言わなきゃ 「あたし…、も、好き…」 なん、ですけど…と語尾がだんだん小さくなって恥ずかしくなって 抱きしめられたまんまだから顔見なくて済む分ちょっと助かった。 と思ってたら、肩つかまれてべりっと剥がされてバッチリと目があった。 顔が熱い。 たぶん真っ赤なんだと思う。 楓は普段と変わらない。 …と思ったら口元だけなんか笑ってた。 「…何笑ってんの」 「別に」 「…あたしの顔見て笑ってんでしょ!」 「なんも言ってねー」 「お、おかしいならおかしいって言えばいいでしょ!?」 「」 「…な、に」 「好きだ」 それが、合図のように 今まで抑えてたものが一気に爆発したように 噛み付かれるようなキスをされた。 「…っ」 息が、出来ない。 ほ、ホントに! 苦しい…! って! 楓のTシャツを引っ張って抗議をするが それに反論するように楓は私をがっちり掴んで離さない さらに体重をこちらにかけてきて ベッドに押し倒されたと思ったらそのまま乗っかってきた。 「ちょっ楓!!!」 ようやくキスから脱出。 そしてこの保健室では行き過ぎの行為にストップをかける。 楓は物足りなそうにこっちを見ていた。 「なんだ」 「なんだじゃないでしょ!下りて下りて下りて!」 「なんで」 「なんでじゃないっつの!早く!」 こちらを見つめたまま楓はしばらく動かなかったが しぶしぶとまたイスに腰掛けた。 そして小さく舌打ちしたのが聞こえた。 こいつ… 「…楓、部活中でしょ?戻らなくていいの?」 「…終わるまでいろ」 「…いいけど」 「じゃあ、戻る」 「いってらっしゃい」 ああ、基本的には何も変わらない。 楓がバスケしててそれを見ている私。 それでいいんだ。 「おい」 「ん?」 「家で覚悟しとけ」 …どーいう意味? なんかやっぱり変わってるコトもあるかもしれない。 幼馴染が彼氏になって思ったこと。 すぐに楓の部屋へ繋がるあの窓の鍵。 今までは開けっ放しだったけど これからは鍵をかけたほうがいいのかもしれない…。 → 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 次でラスト |