ごめんね



本当は、ずっとずっと大好きだったよ。






ひと恋めぐり






「いやー燃えたねー」

「ホント!叫び過ぎてノド痛い」


同点で残り時間30秒って時に放った寿の3Pシュート。
静まりかえっていて、ボールがゴールに入ったときの音が聞こえた。

キレイなその音に鳥肌が立って
その後の歓声っていったらなかった。

練習試合なのにオイシイ試合を見てしまった。


「いやーすごかったね三井くん!」

「でっしょー!?もーホントにね、とりえっつったら3Pシュートか
 相手のファウル誘うかどっちかなのよねー!」

あはははは!と2階で騒いでいると下から声がした。

「こら!」

「はっ、寿いたの!?」

「全部聞こえたぞてめー!」

「あはは!聞こえちゃった?」

「聞こえちゃったじゃねーよ、筒抜けでバスケ部の奴らに大笑いされたし」

「あはははははごめん!」

「ちょ、降りて来い」

「え…あー…」

チラリ、ミカちゃんを見る。
あんまり1人にするのもかわいそうだし…

「ん、いいよ?帰りにジュース買ってきてー」

「あ…うん。わかった!ごめんね」

パタパタと1階へ降りる。

試合は終わったばかりでまだかなりの人数が残っていた。

人の間をくぐって通ろうとしたとき

ふと、人の話が耳に入った。


「いやーそれにしてもミッチーすげぇな!」

「マジで、こないだまでバスケ部ぶっ潰すとか言ってたのにな!」

「まぁ花道も似たようなもんだしな!」


軽く交わされた会話の内容。
笑い話みたいに話してたけど

聞こえたあたしは固まってしまった。


(え、ミッチーって、寿のことでしょ?)

(ぶっ潰すって…?バスケ部を?)

(なんで?なにそれ)



(そんな寿…知らない)






「!」

呼ばれて、はっと顔をあげる。
Tシャツ着た寿がこっちへやってきた。

「何立ち止まってんだよ」

「え、あ…なんか…どっちかわかんなくなっちゃって」

「ほんと方向音痴だなお前は」

はは、と笑って寿は私の手を引いて進む。



(ちゃんと、聞かなきゃ)



繋がれた手を、チカラを入れて握り返す。

今、何も聞かないで逃げたら

前と一緒になってしまう。




連れてこられた自販機。
近くにあったベンチに腰掛ける。

「ん」

「あ!ごめん!ありがと…」

隣に座った寿から差し出されるピンクグレープフルーツジュース。
色々考えてる間に買ってくれたのだろう
冷えたそのジュースを受け取った。

「…どうかしたか?」

「…え?」

「大体お前がぼーっとしてる時はなんか考え事してる時だろ」

「……ぼーっとなんかしてない」

「怒んなって」

ぽんぽん、と頭を撫でられた。

触れられて、実感する。


やっぱり、寿が好きなんだと。



「ひさし…」

「ん?」

「…寿、あたしと別れてから…なんか、あった?」

「……ん、色々」

「…色々って…何?」

「どうした?」

「バスケ部、潰そうとしたって本当?」

「…なんで知って…?」

「さっきね、男の子のグループが話してたの聞いたの」

「………そうか」

「…ほんとう…なの?」

「まぁ、本当だな」


心の奥で、間違いであって欲しいと願っていて
本当だと言われて、心がドキリと跳ねた。
汗を掻いた缶を握り締める。


「なん…で?」

「…なんでって…」

「あたしの、せい?」

「は?」

「あたしが…」




あたしが大事なときに支えてあげられなかったから?




本当はずっと思ってた。

あの時ずっと近くに居てあげればよかった


だけど


荒れていく寿を止められなくて

私ではダメなんだと

我慢できなくて



「っ…」

ポタポタと涙がひざの上に落ちる。
泣くつもりじゃなかったのに。


「…なんでお前のせいなんだよ」

「だって…あたし…逃げちゃった…」


寿のこと置いて逃げちゃったんだよ?

一番近くに居てあげなきゃいけなかったのに


「アレは全部オレがわりぃんだよ」

「…でも…」

「オレの方こそ、悪かった」

「…え…?」

「のこと全然考えなくて、よく泣かせてただろ」

「…!」

「ごめんな」




もう 無理だ




これ以上












これ以上離れているなんて 無理

























「…寿の…傍に戻りたい…」

ポツリ、呟いてしまった。
はっとして口を押さえたけど、寿が目を丸くしてこっちを見てた。

「…き、聞こえた…?」

「おう」

「…ごめ、勝手すぎるね」

小さく咳き込んで、涙を拭く。
もう、寿の顔が見れなくてそっぽを向いてしまう。


「」


名前を呼ばれて、手を握られた。
びっくりしてゆっくりと寿の方を向いた。

「本当に、戻って…くれんのか?」

「…え?…いいの?」

「オレはと別れてからお前に言えない様なこととか…色々…」

「いいよ、だって寿全然変わってないもん」


嬉しくて、思わず涙目なのに笑ってしまった。
寿の顔が一瞬赤く染まって、そのまま抱きしめられた。


「わっ…!ひさし!なに!」

「」


ぎゅう、チカラが篭る。
寿はいつも苦しいくらいチカラいっぱい抱きしめてくれる。
その息苦しさが多少心地よかったりする。

…あたし変なのかな?



「好きだ」



その一言に心臓が締め付けられる。
耳元でぽそりと告げられた二度目の告白。





ああそうか













1番最初の告白も同じこと言ってた。

















一言、好きだ、って。

























「あたしも、好き」


あたしも寿にしか聞こえないような小さな声で返事した。
寿が嬉しそうに笑ったのが見えた。


























「あ゛ーーーーーー!!ミッチーが手ぇ繋いで女の人と帰ってきやがった!!!」

ミカちゃんにジュースを買って体育館に戻ってきた。
手を繋いでいたのをすっかり忘れて。

「あー!!やっと帰ってきた!…あれ?」

「あ、ミカちゃん!ご、ごめん!ほんとゴメン!!」

ミカちゃんはわざわざ2階席から下りてきて探しに来てくれたらしい。
ミカちゃんに謝りながらジュースを渡す。

「ごめんね、今度ケーキおごるから!」

「…そんなことより!!ヨリ戻ったんだ!?」

「えっ…えー…あー」

「ヨリ!?つーことは何?元カノ!?」

キャーキャー騒ぐミカちゃんとは反対のほうから声があがる。
赤い髪の男の子とピアスの子がじぃっとこっちを見てくる。
なんか気まずいんですけど…

「何、三井サンこんな可愛い人が彼女だったんスか!?」

「ミッチーのくせに生意気な!!」

「なんで別れたんですか?」

キレイな女の子まで加わって寿が囲まれて困ってる。
あたしはミカちゃんの相手で手一杯で。


「別れてねぇよ!今もオレの彼女だ!!」

「ヨリ戻ったっつってたじゃないスか!!」

「グレたから別れちゃったんだろ!」

「あーそれは三井先輩がいけないと思います!」


「うるせぇな!もう一生はなれねぇよ!」


「!!!!」


その場にいた全員が驚きで声を詰まらせる。

あたしはその倍驚いて顔を赤くする。



どれだけからかわれても


手はもうずっと繋がったまんまで





















(ミッチーがどんだけグレてたか教えましょうか?)
(え!ちょっと聞きたい…)(わーバカヤロウ!余計なコト言うな!!)

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