その、一言で。 君だけの魔法の言葉 あたしの彼氏様は、なんか知らんけどいつも人に囲まれている。 「南、今日の練習時間どないする?」 岸本が紙に目を通しながら、南に話しかける。 隣におった南も目線はその紙にあった。 「ああ、体育館使えへんねやろ?」 「なんやバレー部が今日だけ全面使うとか言うてたけど」 と、2人で話し合ってる時に、廊下の方から南を呼ぶ声が 「南ー!担任が呼んでんでー」 「あー・・・」 「お前またなんか引き受けたんか」 「引き受けたんちゃうわ。無理やり・・・」 バスケ部のキャプテンだけでも大変やっちゅーのに 他の頼まれごとも引き受けてしまう。 私の彼氏様、南烈はいつも大忙し。 「とりあえず今日の練習は走りこみだけやな、土曜に練習時間増やすか」 そう岸本に言って、南は席を立つ。 きっと呼ばれた担任の元へ向かうんやろうけど・・・ (てか、彼女のあたしがこんなに見つめているのになぜ気がつかへんの!?) 机にひじをついて、昼休み入ってからずっと南のこと見てるのに 南はちっともこっちに気が付いてくれない。 「おい、ぶっさいく」 不貞腐れてるあたしの目の前にいきなり現れた失礼な岸本。 イライラがさらに増す。 「あんたどの面でそーいうことあたしのに言うてんの?」 「うわ、容赦ないなお前」 「うっさいわ、あたし今本気でイラついてんねんから」 「ああ、お前の旦那忙しいなぁ」 ほれ、と岸本からガムを差し出された。 ちょっと躊躇しつつも、そのガムをひとつ貰った。 「そう思ってんならあんた南の分の仕事手伝ってよ」 「できるかボケ」 「・・・ボケって・・・」 「これも南の人望やねんからしゃーないやんか」 「・・・人望ねぇ・・・」 自分の彼氏が人気あるのは嬉しいけど 2人で一緒にいる時間が減るのは正直嫌過ぎる!! 「あ、でも今日は一緒におれるんちゃう?」 「へ?なんで?」 「今日、練習走り込みで終わりやねん」 「え!!?ホンマ!?」 「土曜は遅なるけどなって聞けや!」 岸本の話はそっちのけで、 携帯を取り出してさっそく南にメールを送る。 もちろん、今日一緒に帰ろうのメール。 「返事きたかー?」 「そんなすぐ来るわけないやろ」 「また担任にめんどーなこと頼まれてたりして」 「・・・んなこと言わんといて!」 はぁ、とため息をついた時、手の中の携帯が震えた。 急いで携帯を開く。 「南か?」 「一緒に帰るの無理やって・・・」 「は!?」 「なんや委員会のなんとかって・・・」 「せっかく早よ帰れんのにな」 よし、これもやるわ。 と岸本がソーダ味の飴を袋ごとくれた。 悔しさをこめて力を込めて思いっきりその袋を開けた。 ・・・飴が四方八方に飛んで行った。 *** 「」 「え?」 放課後。 誰かと遊ぼうかと思たけど、なんか元気が出なくて のろのろと立ち上がり教室を出ようとした時 後ろから、声をかけられた。 「・・・みなみ・・・」 「ひまか?」 「・・・誰かさんに振られたから暇や」 「ちょっと付きおうて」 「へ?」 ぱっ、と手を取られてそのまま引っ張られた。 あたしはワケがわからなくて、少しパニックになったけど 手を繋いだのも久しぶりで、ちょっと嬉しくなってそのままついていった。 「・・・みなみ?」 「言うな、わかってる」 連れてこられた空き教室。 そこには、テーブルの上にずらりと並べられたプリント達。 そして端にはホチキスが。 「・・・もしかして、プリントを冊子にする作業・・・」 「よーわかってるやないか」 「めんどくさー何で使うわけ?」 「明日の委員会のなんとか・・・」 「・・・さっきのメールのやつはこれのことか」 壮大なため息を2人でつく。 ちら、南の顔を見る。 しょーじきこんなに近くにいるのも久しぶりで めんどくさいけど、ちょっと嬉しいと思ってしまった自分が悲しい。 「しゃーない、やるか」 「・・・手伝うてくれんのか?」 「ここまで連れてきといて何言うてんの」 「まぁな」 「あー…早く終わったら…」 「あ?」 「な、なんでもない!しよか」 (これ早く終わったら、一緒に帰れるんやんな?) 聞きたかったけど、また無理って言われたらヘコむだけやし とりあえず、南の負担を少しでも減らすか。 しぶしぶ始めたけれど、 ずっと南に聞かせたかった話とか、そーいうのをしゃべり続けてたら 案外苦でもなく、早く終わった。 「やればできるモンやんなー」 作業が終わり、プリントが一掃された何も乗っていない長机に並んで座った。 座ったパイプイスはギィギィと音がうるさい。 「悪いな」 「ええよー久し振りに南と喋れて楽しかったわ」 「・・・ほんま、久し振りやな」 「・・・そんなしみじみ言われても」 「あー、だからか」 「ん?何が?」 「なんやめっちゃ癒されたわ」 「へ?何に?」 「、に」 そういって、髪を撫でられた。 というか髪を指に巻いて完全に遊んでいる。 あたしの、髪で。 「お前見てるとホンマ癒されるわ」 「な、なんやのその殺し文句」 「あ?率直に思うたこと言うただけやけど」 ちょっと、怒ってたのに なんやの!怒るに怒れんやんか! じっ、と南を見る。 それに気づいたのか南もあたしの方を見た。 「どないした?」 「・・・久し振りに目ぇ合ったな思て」 「なんやそれ」 南が少し笑って、最後にぽん、と軽くあたしの頭をなでて手が離れた。 そして南が立ち上がる。 「・・・あれ、もう行くん?」 「は?どこにや」 「・・・え、と。もう仕事なんもないの?」 「これ以上働きたないわ」 「あ、あーそっか、今から部活か」 一瞬、帰れるかも!と思った自分が愚かでした。 南はきっと、部活行くよな。 「部活は今日行かん」 「へ!?」 「今日は走り込みしかせぇへんし」 ぐい、とまた手を引かれた。 つられてあたしも立ち上がる。 「たまにはデートでもするか」 「ホンマに?!」 「ほんまに」 手を繋いだまま、教室を出る。 学校の中で手をつなぐなんて、 いつもなら恥ずかしくて大騒ぎするところやけど。 「・・・珍しいな?南がべたべたしてくれんの」 「お前こそ、ぎゃーぎゃー言わへんな?」 ちら、南を見ると南もこっちを見ていて きっと、お互いしばらく会えへんくて寂しかったんやなって そう思ったら、笑いが込み上げてきた。 「ええか、。玄関出て、体育館前を通り過ぎるまでダッシュすんで」 「えー南とダッシュとかしたら、あたし酸欠になってまうわ」 「アホか、岸本に見つかってみぃ。オレを連れ戻しにくんで」 「・・・岸本なんかに南を渡したりせぇへん・・・!」 「・・・別に争え言うてないやろ」 手を改めて握り返す。 そして玄関を出たところでダッシュ! 「あ!岸本らしきロン毛がこっち見てる!」 「ロン毛やったら岸本や!」 「こっち来た!!」 「あかん!逃げるで!!」 南に手を引かれて ぐんぐんとスピードがあがる。 誰にも、追いつけさせるもんか! (こらぁ!お前さぼる気かぁ!!) (うっさいわ岸本ーー!あたしらのことは放っといて!) (、お前そんな叫びながら走ったらほんま酸欠なんで?) 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 |