すべての始まりはこの月曜日から。 恋する7days -01 高校最後の夏休みももう半ば。 なんも楽しいことはない。 ひたすら家と学校と図書館を往復するばかり。 仕方がない。高校3年生なんてこんなもんだ。 と、思っていたのに。 「…今、なんて言うた?」 ソファに座って、夜ご飯後の休憩時間。 冷たいココアをゆっくりテーブルに置いて 耳を疑うようなその言葉を聞き返す。 「せやから、お父さんとお母さん明日からヨーロッパ旅行やから」 「…は、はぁーーーー!!!?いきなり何言うてんの!?知らんけど!」 「今言うたやないの」 「明日って!えー!?てかアタシは!?どうすんの!?」 「そのことなんやけど、1週間もあんた1人にすんのは心配やから」 「1週間もいないの!?てか受験生の娘置いて旅行て…」 「南さんトコに行ってもらう事になったから」 「・・・は」 「いやね、ウチがヨーロッパ行く言うたら南さんも行きたいって おっしゃるから、じゃあ一緒に行きましょかーってなってな」 「…南さんって…南龍生堂の…?」 「そうそう。昔あんた烈くんとよー遊んでたやないの」 「…それ小学校の話だけど!!?」 「で、烈くんも1人になるから丁度いいって…」 「丁度いいって何が!!!?」 「仲良くするんよ?」 口がパクパクと開く。 何か文句を言いたいのに上手いこと出てこない。 1週間烈の家に住めって!? な に そ れ ! バタン、自分の部屋の戸を閉める。 本当は机に向かう時間なのだけれど、 あんな話の後では勉強する気も起きない。 烈とは、今も高校一緒だけど、昔みたいに話たりしてへんし… なんかバスケでいいとこまで行ってるらしくてキャーキャー言われてるし… 最後に喋ったのはいつやったかな… (…中学の入学式のクラス発表の時…やったな) 中学で初めてクラスが離れた。 お互いに腐れ縁が切れてちょーどよかった! なんて売り言葉に買い言葉で…小さなケンカしてそれっきり。 今じゃもう名前でなんて気安く呼べない気がする。 (ああもう!中途半端過ぎて本間気まずい!気まずい!!) (どうしよう誰やコイツみたいなカンジで見られたら!!) 頭をかかえてベッドでジタバタと暴れる。 考えても考えても、答えが出ないことはわかってるのに (しかも明日!明日からって!!え!?何持ってけばええの!?) 1週間くらい1人で過ごせるから家に残ると母に申し立てたのだが 1週間ガスも電気も止めるそうだ。 …どーしても私をこの家に残していたくないらしい。 イライラしながら、旅行用のバッグをクローゼットから引っ張り出す。 がしゃがしゃとハンガーに掛かった洋服をバッグに突っ込んだ。 *** 「ちゃんと南さんち行きなさいよ?」 「…わかってる」 「ああ、烈くん薬学部受けるんやって。勉強の邪魔したらあかんよ?」 「…はいはい」 「じゃあ、行ってきます」 と、両親はニコニコした顔で行ってしまった。 それをしばらく見つめて3軒隣の南龍生堂のほうを見る。 (あれ、店開いてる…) まだ南家のおじさんとおばさんはいるのだろうか? 家に世話になるなら、おじさんとおばさんがまだ居るときに 行ったほうが気まずさが半減するような気がして とりあえずそのまま南龍生堂へ向かった。 「おはようございます!」 いつも薬局のカウンターにはおじさんがいる。 そのノリで挨拶をした。 が そこにいたのは 「…なんや…朝からテンション高いな」 「え!…あれ?おじさんは?」 「とっくの昔に空港行った。ンちもなんやろ?」 「え…あ、うん…ウチも行った…」(ななな名前呼んだ!!) 「なんで手ぶらなん?荷物は?」 「あ、ちょっと…店開いてたからおじさんに挨拶しよーと思って って!店!なんで開けてんの!?おじさんおらんやん!」 「どーせウチは常連しか来ぇへんから、開けとけって」 「…薬剤師おらんのに…」 「気にすんなや。ええから、はよ荷物もってこい」 「あ…うん」 テクテクと家までの短い距離を歩く。 なんか普通に会話をしてしまった。 「よいしょっ、と」 とりあえず三日分、と詰め込んだカバン二つは意外に重たくて。 午前中だというのにガンガンに照りつける太陽を睨みながら 家の門を出ると。 「お前遅いねん」 「は!?何してんの!」 「荷物1個持つから貸せ」 「え、や、てか店!」 「そっからそこやんけ、客来たら荷物放って行くわ」 …そっからそこやのにわざわざ来てくれたんか?コイツは。 「あたしの荷物やねんから大事に持ってな」 「つうか、何入ってんねんコレ。重!」 「女の子は色々荷物が多いんや!」 なんだかんだいって、荷物を私が寝泊りをする客間まで持ってってくれた。 「とりあえずここ、自由に使ってええから」 「あ、ありがとう」 「オレの家の勝手とか大体わかるやろ?」 「は!?わ、わかるわけないやろ!?」 「昔よー来とったやんけ」 「む、昔やろ昔!」 「じゃあまぁわからんかったら聞きや。オレの部屋の場所はわかるやろ?」 「…それは、憶えてる」 「ほんなら、オレまた店におるから」 パタン、とドアが閉まる。 一瞬息を止めてばたーっと床に倒れこんだ。 畳の匂いがする。この部屋にも昔入ったことがあった。 (そーいや、かくれんぼしたなぁ…烈と実理ちゃんと3人で) ぼんやりと、そんなことを思い出しながら目を閉じる。 さっきの烈とのやり取りを反芻していた。 当たり前だけど、あたしの名前憶えてたんやなぁとか 案外普通に話せて安心したなぁとか 私と昔遊んでいたことも憶えてたんだなぁとか 嫌われてなかったなぁとか 頭の中をぐるぐると駆け巡る。 そうか、あたし 烈に忘れられてへんか心配やったんや。 烈は昔と変わらんくって 昔みたいに接してくれた。 「…なんとか…なりそうな気がして…きた」 ポツリ呟いて天井を見る。 そんな月曜日の午前中。 (…人ンち来ていきなり寝んな) (!! 女の子の部屋急にあけんな!!) 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 → |