一体どうしろというのですか神様。 降っても 晴れても 声をかけられて、振り向いたそこには 散々気にしていたあの彼女が。 びっくりするくらい、自分の心臓の大きな音がした。 「え・・・え?」 絞り出して出した声がひっくり返る。 恥ずかしくて、思わず口元を手で覆った。 「あの、さん、ですよね?」 「は、はい」 じっ、とこっちを見る"元カノ"さん。 一体何なんだと思わずにはいられない。 「つ・・・南の、彼女なんですか?」 「!!!!」 心臓がもうそろそろ壊れると思う。 さっきから動悸が激しい。 ていうかこの人はいきなり何を言い出すんや!? ていうか・・・ (今、"つよし"って・・・) その呼び方が、なんや2人の歴史みたいなのに感じて ただ心がもやもやしまくって ぎゅ、と手を強く握る。 そう 混乱してたけど 悔しい と思ってしまった。 「か、のじょ、です」 「・・・そぅですか」 あたしばっかり、声が震えて 彼女の声は淡々としていて何も変わらない。 彼女は持っていた紙袋をガサガサと探って ひとつ、お菓子を取り出した。 「えと・・・来週、豊玉で練習試合があってその挨拶っていうか」 そう言って、持っていたお菓子をあたしの方に差し出した。 可愛く可愛くラッピングしてあるチョコレートブラウニー。 思わず美味しそう、と思ってしまった。 「あ・・・ありがとうございます」 差し出されてお菓子を両手で受け取る。 ふと頭に浮かんだのは、ポケットに押し込んだ あたしのバナナマフィン。 (お前は、あたしが家で供養してやるからな) もらったお菓子を見つめながら ぼんやりそんなことを思った。 「?」 名前を呼ばれて、顔を上げる。 前にいた元カノのその後ろから南が制服で歩いてきた。 「あ、南・・・」 「・・・何、してんねん」 チラ、と南はその元カノの方を見て呟いた。 元カノは小さく笑って南の方を見ていた。 「挨拶してただけや、ほんなら来週よろしくな」 「おお」 そう言って、元カノは手をひらひらと振って帰っていく。 あたしは、というと 「・・・おい、?」 軽く、放心状態。 気付けば南がものすごい近くであたしの顔を覗き込んでた。 「ぅわ!!」 「大丈夫か?」 「え、なにが?」 「や・・・大丈夫なら、ええんやけど」 「あ、南着替え終わったんや」 「おお、帰るか」 「うん!」 笑って、返事をする。 だけど 気にするつもりはまったくないのに 元カノの顔と声が頭から、離れない。 それを打ち消すかのように 南の顔を穴が空くくらいじっと見つめた。 「おい」 「なに?」 「・・・いや、何はこっちのセリフやねんけど」 「へ?」 「見過ぎや、見過ぎ」 「え?見てた?」 「見てた。なんかついてんのか?」 「いや、そーいうワケやないねんけど」 「、昨日ドーナツ食った日の帰りに口の周りに ドーナツつけたまま帰ってたな」 「はぁ!!?マジで?なんで教えてくれへんの!?」 「や、おもろくて」 「し、信じられへん!」 顔を真っ赤にして、あたしは口元を押さえる。 今さら押さえたって遅いんやけど。 「なんや甘いモン食いたなってきた」 「あ・・・甘いのあるで!」 勢いでポケットに手を突っ込んで、 くしゃくしゃにしてしまったバナナマフィンを思わず出してしまった。 「お、どうしたんやこれ?」 「・・・あ!いや、うそ、間違い!こっちあげるわ!」 不格好すぎるマフィンを慌てて鞄につっこんで さきほど貰った、チョコレートブラウニーを出した。 せっかく貰ったけど、食べられそうにないし。 「これ、さっき・・・」 「あ、南も貰ったんちゃうん?」 「ああ、断ったけど」 「へ?」 「おい」 「え?」 「さっきの」 「え・・・さっきのって・・・」 「バナナのヤツくれ」 「は!?いや、だから・・・」 「ん、」 拒否したにも関わらず 南は手をあたしの方に出して無言でこちらを見る。 あたしはその南の無言の圧力に勝てるはずもなく 恐る恐る、バナナマフィンを出すと 南はそれをすぐさまあたしの手から奪った。 「あ!」 「これ、今日作ってたやつ?」 「うん・・・」 南の手に不格好なあたしのバナナマフィンが。 恥ずかしくって仕方ない。 「いただきます」 「は!?今食べる気!?」 「甘いの食べたい言うたやろ」 「そんな本人目の前にして!」 人の話聞いてへんなコイツ! と思うくらい、あたしの声を無視して 南はガサガサとマフィンのラッピングを取って そのままガブリと一口。 「あーーー!!」 「なんや」 「食うた!」 「いただきますて言うたやろ」 「間違い言うたやんか!」 「間違いってなんやねん」 「せやから、それは・・・」 「美味いやん」 もぐもぐと口を動かしながら 南はあたしの制止も聞かずにまたマフィンをかじった。 「お・・・美味しい?」 「自分で食うてへんのか?」 「え、いや・・・」 食べたけど、という前に マフィンのかけらを目の前に差し出された。 「な、なんや」 「口開けや」 「えっ」 「はよ開けろ」 小さく開けた口に、南がマフィンを頬り込む。 唇に軽く触れた南の指にドキドキして 「美味いやろ?ってオレが作ったんちゃうけど」 なんて南が笑うてるけど 正直、マフィンの味なんてわからへんかった。 お菓子一つで、舞い上がるあたしって・・・。 (つうか今の地味にキスより緊張すんねんけど・・・)(なんやキスしたいんか) (ななななななななっ何、何言いだすっ)(言いだしたんそっちやろ) (いやっ決してそのようなコトは!!)(人おらんとこ行こか)(ひぃ!) 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 → |