たまには、ずぶ濡れになる時だってあるのです。






降っても 晴れても






「・・・あれ?」

「あーみっちゃんおはよー」


次の日。
みっちゃんがニヤニヤしながらあたしの席までやってきた。
が、あたしの顔を見るなり不思議そうな顔して立ち止まる。
そして、前の岸本の席に座ってあたしの顔をまじまじと見る。



「どしたん?もっとウキウキしてると思うてたのに」
「え?ウキウキ?」
「だって昨日デートだったやろ?」
「あー・・・昨日・・・」
「なんや!岸本が邪魔したんか!?」
「きしもと・・・ああ、岸本ね、あいつは別に・・・」
「え、岸本やないの?せやったら何?ケンカしたん?」
「ケンカ?誰が?」
「・・・ケンカでもない・・・え、何ヘコんでんの?」
「・・・・・・・・・聞いてくれる?このもやもや感」
「・・・な、なんや。なんでも聞くで?」


一呼吸ついて、周りを見渡す。
まだ、南は来てへんよな。


「昨日、買い出しのあと南と2人でお茶してん」
「え?2人?え?ええ感じやんか」
「・・・ドーナツ半分こして食べたりな?」
「う、うん」(え、ノロケ?)
「楽しかってん」
「・・・えー・・・よかったやんか。何をヘコんで・・・」
「でもな」
「え?」
「・・その前に・・・・南の・・・元カノに会うてん・・・」
「は!?な、なんで!?」
「偶然や。偶然」
「え、会うて・・・なんかあったん?」
「別に・・・別になんもないねん!ただ気まずい空気が流れて・・」
「そら・・・気まずいやろな」
「大栄の制服着ててな・・・色白くて・・・顔ちっちゃくて・・・めっちゃかわいいねん」
「こ、こら!!そーいうのいらん!言うな!!」
「しかもなんか、最後の方は空気読んで帰ってくれてん!完全に負・・・」
「すとーーっぷ!!」


負けた、と言おうとした所をみっちゃんに遮られた。
みっちゃんを見ると、じろりとこちらを睨んでた。怖い。


「・・・みっちゃん顔怖・・・」
「そーいういじけたコト言うたらあかん」
「・・・せやかて・・・」
「今の彼女はやねんから、しっかりしぃや」
「・・・みっちゃん・・・」


みっちゃんがあんまり熱く語るもんやから
なんか少し泣けてきた。
昨日のあの出来事は、まだ整理しきれんくて
それでも、昨日あの後南が誘ってくれたのはあたしで


今の、彼女はあたしやねんから


「・・・?」
「みっちゃん・・・」
「ちょ、大丈夫?」
「今日の調理実習バナナマフィンだったよね?」
「い、いきなり何を言い出すねんこの子は」
「南にあげよー思て」
「・・え?」
「昨日わかったんやけど、南意外と甘いもの好きやねん」
「・・・切り替え早いわ!」


みっちゃんに突っ込まれて、2人で大笑い。
そのあと岸本が来たけど構わずずっと笑い転げた。
気にしないなんてのは到底無理な話やけど

昨日は不安を上回るくらい、楽しかったから。
















負 け る も ん か !














































*****


「やばいあたし天才!」


放課後
授業で作ったバナナマフィン試食会。
みっちゃんがマフィンを食べて絶賛。
いや、これ、ホンマ冗談抜きで美味しい!


「あたし、ってみんなで作ったやろ」

みっちゃんを横目にりぃちゃんも一口。
少し表情が明るくなって、
りぃちゃんもマフィンの美味しさに気付いたらしい。


「、ちゃんとラッピングしたの持ってる?」

「え、あ、うん。一応」

「南にあげるん?」

「うー・・・うん」


手の中には、控え目なリボンで飾ってあるマフィン。
焼きあがりが一番きれいなのを選んだ。


「南、どこいんの?」

「えーと、今度の練習試合に出るから練習するって」

「じゃあ体育館?」

「に、居ると思う・・・けど」

「じゃ、早う行っといで」

「・・・う・・・」

「早く行かへんとそれあたしが食べるで!?」

「みっちゃん目がマジ!」

「ええから、はよ行き」

「りぃちゃん・・・」

「うじうじしてる子は嫌いや」

「・・・いってきます!!」








りぃちゃんとみっちゃんに背中を押されまくって
鞄を持って教室を出た。
もう放課後で、廊下にもほとんど人居らんかったから
だんだんソワソワしてきて、廊下をダッシュ


だってなんか、早く会いたくなってんもん。



にやにやしながら、体育館に向かう。
相変わらず見学の多い体育館。
入り口をウロウロしながらなんとか中を見ようと
背伸びをしてみたり、ちょっと屈んでみたり。
そんな人の隙間から南を発見。


「あ・・・」


小さく色んな人に謝りながら前に進む。

すると

目に入ってきた


心臓に矢が刺さったかのような衝撃。


























「あたし知ってるわあの人、南先輩の元カノやろ?」

「マジで?めっちゃ可愛い人やん」


後ろでこそこそと聞こえる話声。
あたしだって知ってるわ

昨日会ったし!!!







目に入ったのは、南と昨日見かけた元カノさんのツーショット。
なんでこんなトコ居んのかさっぱりわからへんけど
体育館の隅で何やら話をしてて、雰囲気がいつもと違う。
他の部員もチラチラと2人を気にしてて


あたしは

体育館の中には入って行けず

なんや線を引かれてる気分になった。


そりゃ、しゃーないやんな

だってあたしは別にバスケ部でもないし?






なんて色々考えてると、いきなり岸本の声が耳に入ってきた。






「トモちゃーん、差し入れのコレもろてええ?」

「ドリンクの方?そのピンクの袋の焼き菓子は食べんといてな」

「練習してる時にこんな水分無くなるもん食べへんわ」


そんなやりとりをして、岸本はガサガサとでっかいポカリを取り出す。
そしてあたしは手の中のバナナマフィンを見つめる。


(・・・あっれー、あたしのコレは場違い?)


恥ずかしくなって持っていたマフィンを無理矢理ポケットに突っ込んだ。
帰ろうかどうしようか迷ってたら、南の声が聞こえてきた。


「てか、岸本、もう練習終わりやねんから皆で飲めや」

「あ、もうそんな時間か」


そう言って、岸本が集合を掛ける。
部員が岸本と南の近くに集まって何やら話を始める。
その集まった部員の前で、元カノも何か話をして頭を下げていた。

南の声でこの場から動けなくなって、ぼーっとしてたら
いつの間にか見学の人数はかなり減ってて
あたしの立っているその場所には、3人くらいしか残ってへんかった。





(あ、あれ人少ななってる・・・あたしも帰らな・・・)

まだぼーっとしたまま、地面に置いていた鞄を手に取った。








「?」








そして帰ろうとしたその時に、急に呼ばれて身体が跳ねる。
我に返って目の前にいるその人物を見上げた。



「あ・・・み、みなみ・・・」

「いつから来てたん?すまんな気がつかへんかった」

「や、さっき・・・ていうか人に埋もれてたから」

「ああ、小さいからな」


ぽん、と頭に手を乗せられる。
心臓に刺さった矢の傷跡が少しだけ癒された気がした。


「う・・・うるさいわ」

「はは」


南があたしと会話して、笑ってくれて
あたしは単純やからもうそれだけで


「せや、もうちょっと待てるか?」

「え?うん、平気やけど」

「送るから、ちょっと待っとけ」

「・・・・・・ええの?」

「そんな遠慮することちゃうやろ」


そう言って南はまた部員のいる所へ歩いて行った。
あたしはと言うとまた、ぼーっと自分の世界へ浸りそうになった


その時




「あの」



話しかけられて

ゆっくりとそちらを向いた。

あたしの心臓はまたしてもズキズキと痛みだす。


「ちょっと、ええですか」


向いた先に居たのは

"トモちゃん"と呼ばれていた、南の元カノ。















天国と地獄とはまさにこのことかと。








































(お?来てるん?よっしゃ!からかいに行ったろ)(待て)
(な、なんや南)(近寄んな)(は!?)(お前はに近寄んな)(南こわっ!!)
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