人生は楽しいこと優先!!






降っても 晴れても






小さく呟いたその女の子は
こっちを見たまま固まっていて視線が外れない。
それは、南も岸本も一緒やった。
あたしはその女の子と南と岸本を交互に見合わせて
キョロキョロと1人落ち着きがない。

顔ちっちゃくて、肌白くて、ベリーショートが似合っていて
ぶっちゃけてしまうと、ものすごく可愛い。

そう、思った瞬間に無意識に手に力がこもる。
心がなんか、黒くてもやもやして
今すぐに南の手を引いてこの場を立ち去りたい。

ここに、居るのがものすごく、辛い。




「トモちゃん?」




隣にいた男が、その女の子に声をかけた。
あたしたち3人はその瞬間にその男の方を見た。
女の子の方にばっかり気を取られてて
男の方はまったく気にしてへんかったんやけど
岸本見たら、顔がなんや嫌そうに歪んどった。

「げっ、土屋・・・」

「おー岸本やんか、何してんの?」

「何って買い出しや」

「へぇ、岸本も買い出しするんや。てか南も」

「買い出しくらいする時はするわ」

「あれ、女の子おるやん。新マネ?」


『土屋』と呼ばれた人に、まじまじと見られた。
なんや気まずくて、南の後ろにちょい隠れた。

「ちゃうわ」

「へ?マネージャーちゃうの?じゃあ何・・・」

「土屋!」


土屋くんが何かを言いかけた所で
後ろにいた女の子が、土屋君をぐいっと引っ張った。


「買うもん買うたら、すぐ帰ってこい言われてるやろ」

「あー・・・トモちゃん真面目やなぁ」

「土屋が不真面目やねん」


土屋くんは女の子にぐいぐい押されてレジに向かう。
そして一度だけ、振り向いた。


「じゃあね」


申し訳なさそうに少し微笑んで
そのまま行ってしまった。
あたしたち3人はなんとなく、その場に立ち尽くした。

なんとなく、気まずい雰囲気。



なんか・・・なんか喋らな

早く、さっきの楽しい雰囲気に戻さな。

そうしないと・・・



「岸本」



びくっ

あたしの名前やなくて、呼ばれたのは岸本やのに
身体が怖いくらい跳ねて、恐る恐る南の方を見た。


「え、あ・・・なんや」


岸本もなんやあたしと同じように少し戸惑ったように見えた。


「と、ちょっと話してくるから先帰っといて」

そう言って、南は岸本に茶色い封筒を渡してあたしの方を見た。
あたしよりはるかに大きい南をあたしは
また、恐る恐る見上げた。


「」

「は・・・はい」

「ちょっと、付き合うてくれへんか」


南はあたしの返事を待たずに、ぐい、と手を引いた。
あたしは引かれるがまま南に付いていくしかなくて
ちらっ、と岸本の方を見たら
岸本は、まるで猫でも追い払うようなしぐさで
こちらに手を振っていた。


(このっ・・・しっしってどーいうことやねん!)


手を引かれて、必死に南に付いていく。
つうか早い!歩くの早いよ南!
大体足の長さどんだけ違うと思てんねん!?
南にとっちゃ1歩かもしれんけど、
あたしにとっちゃ3歩分やっちゅーの!!!


「はぁ・・・っ」

「あ、すまん。気ぃつかんかったわ」

「え?」


だんだん息が弾んできたあたしの方を見て、南が足を止める。
そしてゆっくりと歩き始めた。
と、同時に手が離れてしまった。


(・・・あーあぁ・・・)


なんて思っていたら


「、どこ行きたい?」

「え、えーと・・・南は?」

「俺?俺はどこでもええけど」

「えーと・・・どうしよっかな・・えーと・・・えーと・・・」

「ふっ・・・」

「・・・え、・・・え?何、今笑うた?」

「せやかて・・・悩み過ぎやろ」

「だって!南と初お茶やもん!悩むわ!」


と、力いっぱい言ってしまって、
なんだか恥ずかしくなって思わず手で口元を覆った。
徐々に顔が熱くなるのがわかる。

そんなあたしを南はじっ、と見て


「ははっ」


また、笑うた。


「ちょ、馬鹿にしてるやろ!!」

「してへんて」

「もう!もうどこでもええわ!」

「怒んなって」


な?とあたしをなだめるように、頭をポンと撫でた。
あたしは悔しいやら恥ずかしいやらで中々顔を上げられない。

「あ、せや」

「え?」

「ドーナツ屋行こうや」

「え?ドーナツ・・・って・・・」

「俺が前行けへんかったやつ」

「・・・憶えてたん?」

「憶えてたって、そんな昔の話ちゃうやろ」

「ま・・・まぁそーやけど」

「決まりな」

「・・・うん!」


さっきの不機嫌さはどこへやら
あたしは速攻で笑顔になりご機嫌で南に返事をした。










































***





































「おいしそー」

ドーナツを選んで、席についた。
カフェラテの匂いがドーナツ欲をそそる。
そうご機嫌なあたしはすっかり忘れてた。

ここで、なんの話をするのかを。


「南のもおいしそうやな?」

「なんや、人のドーナツ狙てんのか」

「いやいや狙ってるやなんてそんな」

「つうか、えらいご機嫌やな」

「え?」

「一緒に来てしてくれへんかと思てたんやけど」

「・・・なん、で・・・?」

「なんで・・・って」


なんで、って言うたけど
知ってる、思い出した。
てか忘れてたあたしもアホやけど


「あ・・あの・・・さっきの子・・・」

「・・・・・・ん」

「あの子、元カノ・・・やんな?」

「せや」

「・・・・・・・や・・・・・・・・やっぱり!」

「え・・・お・・・おお・・・え、どないしたんいきなり」

「へ?いや思った通りやなって思て」

「なんでそない明るいねん」

「そう?」

「なんつか・・・前向きやな」

「気にしてたら、やってられへんもん」


ばくっとドーナツを一口頬張って
それをカフェラテで流し込んだ。
そんなあたしを見て、南が小さく笑うたのが見えた。


「やっぱ、はええな」

「え?」

「のそれ、半分交代しようや」

「へ?え?あ、ドーナツ?どっち?」

「そっちのチョコ」

「え、ええけど・・・」



さらっと、心臓撃ち抜くセリフを言ってくれるわ南さん。

どういう意味が込められているのか、よくわからないけど

それでもあたしには

ただ本当に


心から、舞い上がってしまう言葉。








「やっぱ、はええな」









色々、聞きたいことあったけど

今日は初デートやから

それはもう後回し











楽しまな、もったいない!



















































ホ ン ト は め っ ち ゃ 気 に な っ て ん け ど な !
































(あー!南あたしのカフェラテ飲んだ!?)(俺の飲んでええから)
(あたしが南の飲んだら間接キスやん!?)
(・・・俺かてすでに間接キスしてるわ)(あっほんまや!ずる!!!)
(ずるいってなんやねん・・)
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

→