乙女は意外と強く出来ているのです。







降 っ て も 晴 れ て も








前の席の岸本は、あたしが隠れるのに丁度いい。

そしてあたしは後ろから南を見つめる。



授業が終わり、昼休み。

岸本が後ろを向いた。


「なぁ」

「なに」

「席、俺と変わるか?」

「なんで」

「前見えへんやろ?」

「別にええよ」

「いや、でもホンマに見えにくいやろ?」

「視力は2.0あんねんであたし」

と、言い合いをしてると横からみっちゃんが出てきた。
口元を緩ませて、岸本を指でつん、とつつく。

「ひゅー岸本やさしいなぁ」

「あーみっちゃーん」

「ーまた席離れたなぁ」

「みっちゃんとりぃちゃんは近くなのになんであたしだけ岸本・・・」

「ハズレみたいに言うな」

「まぁ岸本はハズレやんなぁ。かわいそうに」

「みっちゃん・・・」

「アホくさ」

「あ、岸本どこ行くん?」

「ああ?自販機」

「あたしに、みにっつめいど買うてー」

「んな金あるか!」



そう言って、岸本が教室から出て行った。

そしてその岸本の席にみっちゃんが座る。


「どう?元気?」

「ん、元気ー」

「さっき、普通に喋ってたしな」

「あー・・・いきなり席替えやとは思てなくて、南の席に気になったから聞いちゃった」

「それでええんちゃう?席近くなくても喋れるやろ?」

「ん、まぁ・・・どうやろ?」


今は喋りたい気持ちよりも、気まずさの方が勝ってるし

それに、好きな気持ちも消えてへんし


(断られたのに、好きっていうのはやっぱ迷惑やんなぁ・・・)


気がつくと、目線は南の方に。

なんや隣の子と喋ってるし。


(ちょっと前までは、あたしのポジションやったのに・・・)


するといきなり、目の前が腕で遮られて

机の上にはジュースが2本置いてあった。


「あーみにっつめいど!!」

「ちょ、岸本あたしのは!?」

「は失恋したから買うてやってん」

「・・・なんかそれ嬉ない・・・」

「岸本デリカシーないわー」

「・・・何やってもオレそんな扱いかコラ」


みっちゃんと2人で、岸本を笑い飛ばす。


が、


岸本の後ろに現れたその姿を見て

息を吸ったまま止まってしまった。



「岸本」

「あ?おお南」

「お前昼飯どこで食うねん?」

「あー・・・学食行くか、、お前は?」

「は、は!?」


どくんどくんと心臓が鳴る。

朝は席替えでそれどころじゃなかったけれど

今は目の前の南に緊張して視界も定まらない。

それなのに岸本が話を振ってきたもんだから

声がまた、裏返った。


「よー声裏がえんな」

「あ、はは・・・なんか、ノドおかしくて」


南があたしに話かける。

ものすごくぎこちない返事をしてるのが自分でもわかる。

それなのに南は


「じゃ、これやるわ」


そう言って、机に半分減ったのど飴を置いた。


「岸本、行くで」

「おお」


そのまま南は岸本の肩を軽く叩いてから、あたしの横を通り過ぎた。
続いて、岸本も立ち上がって南の後に続いて行った。


しばらく息をするのはを忘れてたかもしれん。

南から貰た飴。

これが感動せずにいられるか。


「うわ、顔ひどっ」

「なんやそれ!ひどっ」


まぁ、言われても仕方がないと思う。

涙をこらえて、さらに顔真っ赤。


「・・・、鼻出てんで?」


みっちゃんの後ろから声がして、見上げると

そこにいたのはりぃちゃんで。

あたしの机に持ってたお弁当箱を置いて

ぽん、とポケットティッシュを投げてくれた。


「あ、ありがとう」

「・・・それ、南に貰うたんやろ」

「え、うん」

「お礼、言うたん?」

「あ、言えへんかった」

「ちゃんと、言いなよ」


そう言って、りぃちゃんはイスを持ってきてそれに座り

持ってきたお弁当箱を広げる。


「はっ、あたしもお弁当持ってくる!」


みっちゃんは慌てて自分の席にお弁当箱を取りに行った。

りぃちゃんはすでにお箸も出して準備万端。


「りぃちゃん」

「ん?」

「メールでお礼とかあり?」

「・・・ええんちゃう?」


りぃちゃんはもう箸を口に運んでて

戻ってきたみっちゃんも、食べる準備してたけど

あたしの手には携帯。

ただ一言お礼を言うだけなのに、悩みながらメールを打った。








































「南、お前今日何食う?」

「・・・A定か、ラーメンか」

「俺ラーメン食うからお前A定にせぇや」

「そう言われると、ラーメン食いたなるわ」


券売機の前で悩んでいると、ポケットの中で携帯が鳴った。

ポケットから携帯を出して送信者を見る。

その送信者を見て、南は急いでメールを開いた。

そして急いで押した券売機。

出てきた券は特にそそられなかったB定。

小さく舌打ちをしつつも、メールが気になったので

そのままカウンターに向かった。



「・・・メール、か?」

「ああ」

「てか南なんでB定?」

「・・・間違うた」

「ふーん」


トレイを持って、テーブルに座る。

岸本がズルズルとラーメンをすするのをちょっと羨ましく思いつつ

選んでしまったB定のサバ味噌をつつく。

そして、ずっと思っていたことを岸本に聞いてみた。


「なぁ」

「ああ?」

「お前、なんも言わへんねんな」

「・・・なんの話や」

「の」

「ああ」

「お前、の味方ちゃうんか?」

「別に?俺は中立や」

「そうか」

「それにな」

「あ?」

「オレが南責めてみぃ」

「?」

「オレがに倍責められるわ」

「・・・・・・」

「つうか、お前あれか?」

「ああ?」

「中学ン時のまだ気にしてんのか?」

「・・・関係ないわ」

「そぉか」


喋り終わると、岸本がまたずるずるとラーメンをすする。

南は握ってた携帯の中のメールをじっと見つめた。





















































「なぁ、あたしまだ南のこと好きやねんけど」


ご飯も食べ終わって、そのままお喋り。

そして今カミングアウト。


「・・・まぁ、見ててわかるけどな」

「せやね。そうだと思うてたよ」

「ああそう」


隠してたつもりもなかったけど、筒抜けも少し恥ずかしい。

そう、振られたけれども諦められる気がしない。


「別にいいんちゃう?」

「まぁ無責任なこと言えへんけどな。無理に忘れんでもええやろ」


みっちゃんとりぃちゃんが笑う

思うだけなら、ありちゃうかな?


なぁ、南。



ぎゅう、と携帯を握る。

返事はもとより期待はしてへんけど。

とりあえず、メールを読んでくれてることを願った。























(?どしたんそんな嫌な顔して)
(メール着たから見たら岸本からやった・・・)(そらそんな顔にもなるわな)
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