毎日ドキドキさせられる



無意識、私キラーな彼。






降 っ て も  晴 れ て も






隣の席で授業を受けてるこの男、南 烈。
基本無表情で、キレた時は目線で人を殺せるくらい怖い。
そんな南をチラチラと盗み見る。


(・・・つまらなそうな顔してんなぁ・・・)


そんなことを思いながら
ノートをやぶって、それに書き込む。
適当に畳んで、ぽーんと隣の席に投げ込んだ。
それに気付いて、
南は一度こちらを見てその紙切れを開ける。
どんな反応を見せてくれるのかと思ったけど無反応。
そして南はそれに何か書き出した。

それをぐしゃぐしゃにしたと思ったら
こちらに投げ返して来た。ていうか頭に当たった。
このやろう。

ぐしゃぐしゃにされたあたしの手紙を開いて中を見る。

そこには大きく“アホ”とひとこと。


「せっかく人がカリメロ書いてやったのになんやその扱い!」

「せっかくの意味がわからんわ阿呆」

「これめっちゃ書くの練習してん!」

「時間の無駄や」

「ありえんわー人の努力踏みにじった!」

「うっさい」



「うるさいのはお前らやろ」



「げ・・・」

気付けば、目の前には教科書片手に見下ろす先生。
その先生の目線はカリメロとアホの紙切れ。
しまった!とノートで隠したが、時すでに遅し。

「南とは、昼休みに職員室に来い」

そう先生に告げられた瞬間に、
授業の終わりと昼休みの始まりを告げるベルが鳴った。



「最悪や!」

「こっちの台詞や」

「南がアホとか書いて返事よこすからあかんねん!」

「授業中にあんなんよこしてくるのが悪いんやろ」

「あーいややー絶対なんか面倒なこと言われるー!」

「・・・本間とばっちりもいいとこやろ・・・」


2人で頭を抱えてため息。
そこに割って入ってきた男がぽん、と2人の方を叩く。


「今日も、やらかしよんなお前ら」

「なんやねん岸本」

「相変わらず漫才やってんな」

「・・・俺はとばっちり食らってるだけや」

「いっつも南がヘマすんねんもん」

「ヘマって・・・お前がちょっかい出してくんのがあかんのやろ」

「え、・・・ええやんか!なぁ?あたしと南の仲やん?」

「本間意味わからんわ・・・ほら、行くで」

「は?どこに?」

「呼ばれたやろ、俺だけ行かせんのか」

「ああ!待って待って」


2人で揃って教室を出る。
職員室に行く途中通りがかった購買には人だかりが出来ていた。



「なぁ、ウチらお昼ご飯食べる暇ないんちゃう?」

「なんでや。昼飯食えんとかありえんやろ」

「せやかて絶対あいつ資料室の掃除しろとか言うねんで」

「じゃ、パン先に買うてから行くか」

「え!あたしお財布持ってきてへん!」

「じゃ、先買うてくるわ」

「え!あたしも食べたい!ちょ!」


私の文句が聞こえたのか聞こえなかったのか
南はお構いなしに購買でパンを買っていた。

(つうかちょっとでかくて怖いからって簡単に横入り・・・)

戻ってきた南を恨めしそうに見つめると
ヤツはパンが何個入ってるのかわからない大きな袋を抱えて
しれっと目を合わせてきた。

「なんや」

「・・・パン・・・」

「えぇから、はよ来い」

がっ、と頭を捕まれて前に押し出されて
ふらついて南を睨みつつ、職員室に着いた。


「失礼しまーす」

「おぉ、来たか漫才コンビ」

「せんせーセンスないわぁ。てかお昼まだやから、はよ終わらせてな」

「、お前反省してんのか?」

「・・・こいつには俺から言うとくから、先生大目に見てくれへん?」

「南も大変やな、ほなこれ」


きら、と小さく光る鍵を渡された。
一緒に付いている札には『資料準備室』と書かれていた。
先生はそれを渡すなり、机に向き直り
2人のことはもう忘れたようにお弁当を広げだした。

それを見て、私たちは向き合って渡された鍵を見てため息をついた。












***












「うわ!ほこりっぽい!!」

資料準備室とは一体何をする部屋なのか一切不明。
絶対にしばらく使った形跡のない教室。
それを掃除するってなんのために!?

「ちょ、窓!南!窓開けて!!」

「この部屋なんのためにあんねん・・・」

「今まったく同じ事考えとったわ・・・って!!」

「あ?」

人が窓を開けている最中に、南は一つの窓だけ開けて
その近くに腰掛けて、先ほど買ったパンを食べ始めていた。
これが突っ込まずにいられようか。


「何1人でパン食うてんの!?」

「今食わな、いつ食うねん」

「・・・鬼・・・!あたしもお腹減ったー」

「ん、」

「・・・へ?」

「やる」


そう言って差し出されたツナサンド。
そのツナサンドに空腹の私は目が釘付け。

「おら、早う手ぇ出さんかい」

「え!え、ええの!?ていうか南が!?ええ!?」

「南がってなんやねん。が、って」

「や、え・・・あの本間にええの?」

「ええから、はよ座って食え」

「うん!」


南が座っている前のイスに近づいて腰掛ける。
廊下と窓から見える校庭から小さく声が聞こえて
でも、一番大きく聞こえるのは
目の前にいる、南の声。

「おいしいー」

「・・・ツナサンドごときで・・・」

「購買のツナサンドめっちゃ美味しいやん」

「・・・普通やろ」

「・・・だって、あたしツナサンド・・・」


喉まで出かかった言葉が詰まる。
少し顔が熱くなるのがわかる。

南の前で、この言葉を発するのは少し勇気が必要だ。



「・・・ツナサンド・・・がなんや」

「え・・・あー・・・」

「・・・?好きなんやろ?」

「・・・っぐ!」


ツナサンドが喉に詰まった。
水分が足りない

と、いうのは建前で




本当は南の言ったその一言に少し動揺したから。




「なんや汚ない」

「っ・・・!み、みな・・・南が悪い!」

「はぁ?本間意味わからん」





みなさん、もうお気づきでしょうが

あたしは、口げんかも

漫才コンビと呼ばれるのも

いつ使っているのかわからないような教室の掃除を命じられるのも

南とだったら、嬉しくって楽しくて

なんだって出来てしまうのです。





その、理由はただひとつ。
























(あかん!貴重すぎて全部食べるの勿体ない!!)

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