だって大好きなんだ






どうしてか、君なんだ






「ひろあきー」


廊下からひょい、と顔を出して越野宏明を探す。
そしたら「来た!」みたいな顔してこっち見てた。
毎日失礼なヤツだと思う。


「何よその顔」

「ってか…お前ホント毎日よく飽きねぇな」

「だって…宏明とご飯一緒に食べたいんだもん」

「…だからお前はどーしてそーいうコトを…」

「何よー好きなものを好きと言って何が悪いの!」

「っっ!!!!わかった!もういいから!行くぞ!今日も屋上だろ!?」

「うん!」



3ヶ月前に告白をしました。
だけど、振られました。

それでも諦め切れなくて、とりあえず一緒にいたくて


「はい、宏明。あーんして」

「するか!!!」


お昼ご飯のお誘いに毎日通い詰めている次第です。

「ちぇ、ちょっとくらい恋人気分を味あわせてよ!」

「恋人になったってオレはあんなコトしねぇ!!」

「けーち」

空っぽになった2つのお弁当箱を持ってきたバッグに仕舞う。
料理はそんなに得意ではないけれど、
いつも宏明は私の作ってきたお弁当を全部食べてくれる。

「宏明、今日のお弁当どうだった?」

「普通」

「そ?まずくなくてよかった」

あはは、と笑って持っていた林檎ジュースを飲んだ。
いつか「美味しい」って言ってもらいたいなぁ…



「あれー?ちゃん」

屋上の入り口の方から名前を呼ばれて振り返った。
越野はまた変な顔してその方向を見ている。

「あ、仙道君」

ゆるいカンジにテクテクとこちらへ歩いてくる。
相変わらず、顔はにこにこと穏やかだった。

「ちゃんまだ越野に尽くしてたの?」

「そりゃーだって好きだもん」

「ばっ!だからお前そーいうこと言うのやめろって!」

「こんなに可愛いのに…もうオレにしときなよ」

座っている私の前に仙道君もしゃがんで頭を撫でられた。
目線は近くなってもやっぱり見下ろされる。
そしてやっぱり表情はいつもの冗談言うときのあの顔。

「仙道君、こないだ彼女とケンカしてたでしょ。見たよ」

「え、見られてた?」

「仙道君超謝ってた」

「変なトコ見られちゃったな」

「仙道君いったい何したわけ?」


と、仙道君を落としに掛かろうとしたとき
地面に置いていた携帯がブーブーと振動している音がした。


「、なんか鳴ってる」

「あ、あたし?メールだ…先生に呼ばれてるってさー」

「何したんだよ?」

「ええーなんにもしてないけど…しょーがない行ってくる」

「ちゃん放課後、来るでしょ?」

「体育館?行くよーまた後でね仙道君。宏明も教室戻ってていいからねー」


身支度を済ませて、2人に手を振る。
宏明は相変わらずだったけど、仙道君は手を振ってくれた。








「…越野」

「なんだよ」

「お前、ちゃんの何が気に入らないの?」

「…なんの話…」

「わかってるだろ」

「余計なお世話だよ」

「ほんとに、いつまでもそんなだったらちゃんどっか行っちゃうよ」

「おれは…別に」

「…ふーん、そうか」


何か含んだ言い方をして、仙道は立ち上がる。
越野は何か納得がいかなくてじっ、と仙道の方を睨んだ。

「後で、後悔しても知らないよ」

言い残して、スタスタとその場から立ち去った。
越野は言いようのないイライラが募って
持っていた紙パックジュースの空をその場に叩きつけた。












「あれ、」

廊下を歩いていると、窓から屋上が見えた。
なんか…ケンカしてるみたいに見えるのは気のせい?
宏明怒ると口利いてくれないからなぁ…


そんなコトを思いながら、は職員室へ入っていった。




























「…ひ…ろあき?」


放課後。
部活に行く前にうざがられようが、何言われようが
真っ先に宏明に会いに行くのも日課。
今日も終わってすぐに宏明のクラスに来た。

で

そのときの宏明の顔の怖いこと。


「…な、んか怒ってるの…?」

「…別に」

「…あたし何かした…??」

「怒ってねぇ」


怒ってないわけないのに!一目でわかるし!!
机の前でオロオロと立ちすくむ。
宏明はムスっとしたまま机から立ち上がらない。


「あれーさん」
後ろから声をかけられた。
中学が同じだった男の子。
喋ったことはある。程度の仲だった。

「あー…あ、久しぶり」

「何?まだ越野のこと追っかけてんの?」

「え…っと、うん」

「マジでーすごいね。でもまだ付き合ってないんでしょ?」

「…うん」

「じゃあもうオレにしない?オレさんのコト好きだったんだよね」


いきなり何言うのこの人!
いやあたしも教室で散々宏明が好きとか言ってきたけど!!
恥ずかしすぎる!迷惑!

やばい、あたし宏明にいつもこんな迷惑な思いさせてたんだ…


「ね、いいじゃん!」

ぐい、と手を引かれた。
バランスが崩れて持っていたカバンを落とした。

「あっ…ちょっと!」

「こんな冴えないヤツやめときなって」


怒りの感情が起こった瞬間は一緒だったと思う。
だけど、まず先に手が出たのは


「勝手なこと言わないでよ!」


手のひらがヒリヒリする。
知らなかった。引っ叩かれても痛いけど
引っ叩いた手もこんなに痛いなんて

「ちょ、!」

「った…何すんだよ!?」

「あんたが先にケンカ売ったんでしょ!?」

「ばっ!何してんだ!!」


叩かれた右の頬を押さえながら、
こっちに殴りかかってこようとした瞬間。

宏明は自分のカバンとあたしのカバンと


あたしの手を取った


「ひろ…?」


そしてそのまま逃げるように教室を出た。

なんか男が怒鳴ってた

後ろから追いかけられるんじゃないかとか

色々考えないといけないことはいっぱいあったんだけど


繋がれた手が




もうそのことしか考えられなかった。

























「ばっかじゃねぇのお前!」

体育館のロッカー前まで来た。
さすがに現役バスケ部には適いません。
酸素が足りなくて頭がくらくらする。


「へ…な…にが」


ついでに言葉もまともに喋れません。
宏明は呼吸が少し乱れてるだけだった。

「あんなん軽く交わしときゃいーんだよ」

「そんなことできるわけないじゃない!」

「なんでオレがバカにされてお前が怒るんだよ!」

「好きだからに決まってるじゃない!!」



あ。


また言っちゃった。




みるみる宏明の顔が赤くなる。
怒ってるのか恥ずかしいのかもよくわからない
むしろ両方?


「ひ・ひろあき!?ごめんね?恥ずかしかったよね?」

「………っとに…お前は…もうしらねぇ!」


べしっ、とあたしの荷物を地面に投げつけて宏明はロッカーに入っていった。
あたしはと言うと、怒鳴られなくて少し嬉しくなってにやけながら
自分の荷物を拾った。

























「相変わらずだな」

ロッカーに入るとそこには仙道が無表情のままコチラを見ていた。
思わず越野は驚いて壁にぶち当たる。

「せっ…おまっいつからここに…!」

「バカじゃねぇのお前、からかな」

「(全部!全部聞かれた!!!)」

「ほんと、ちゃんはお前のこと大好きなんだねぇ」

はぁ、と息を吐いてお先に、と声をかけて仙道は体育館の方へ行った。


仙道の姿が見えなくなると

越野も大きく息を吐いてその場に座り込む。



心臓が痛い。

そんなに動いて大丈夫なのかと心配になる。












目をつぶって浮かんでくるのは






「好きだからに決まってるじゃない!」






いつも回りをチョロチョロしているあの女の子。














「あーもーワケわかんねぇ…!」
















誰か彼に教えてあげてください。

さっさと素直になってしまいなさいと。

















(聞いて仙道君!さっきね!宏明に怒鳴られなかったの!)
(…ほんと、ちゃんいい子だね)
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おだい