どうぞ、美味しく召し上がれ。






Lunchtimeをご一緒に






「おーい、ー弁当は?」

「あるよ。てかちょっと遠慮しなさいよ」


授業が終わりお昼の時間。
購買へ買いに行く人、学食に行く人、お弁当を持ってきてる人様々。

が、

この男、藤真健司は毎日あたしのところにお弁当を催促に来る。





「はい」

「お、サンキュー」


お弁当を広げて、うまそーと藤真がつぶやく。
作るのは少し面倒くさいけど、その一言を言ってもらえればやっぱりうれしい。


「これ!うまい!何?」

「・・・食べたね」

「はっ、まさか俺の嫌いなもん?!」

「うん。レンコンなんだけど。美味しかった?」

「げ!マジかよ!普通に食っちまった」

「げっ、て今おいしいっ言ったじゃん」

「・・・あ、これはわかる。ピーマン入ってんだろ」

「ちっ、バレたか」


この王子様。野菜が大嫌いだという。

そんな藤真に、いつだったかお弁当のおかずを少しあげた時に

「お前の弁当のおかずは野菜なのにウマい!!」とか絶賛されて

それ以来、弁当を作ってこいとねだられて

仕方なく作ってくること、もうかれこれ1ヵ月。


「今んとこ克服出来たのはトマトとナスだけかぁ」

「ゴボウも食えるけどな」

「威張るな。昨日はシイタケにキレてたくせに」

「シイタケは食えねぇ!」

「あたしがお弁当を作る以上絶対食べさせるから!」

「こえー」


くしゃっ、と顔をゆがめて笑う。

くそう。この王子フェイスめ。ドキドキするからむやみに笑うな!

ぱっ、と自分のお弁当に目線を落として口に運ぶ。

「あ、ピーマン食って」

ポイポイっとあたしのお弁当箱に藤真が緑色の物体を投げ込む。

見抜かれたものは仕方がない。

しぶしぶとピーマンを口に運んだ。


「・・・明日こそ全部食べさせてやるから」

「おー楽しみだなー」

そう言って、藤真はお弁当を包みなおして、ぱん!と手を合わせて

ごちそうさまでした。とこちらを向いて言った。


「おそまつさまでした」


藤真から、お弁当箱を受け取る。

そして藤真はポケットに手を突っ込み


「やる」


飴とチョコレートをバラバラと机に置いた。

これもいつものことなので驚かない。


「ありがと」


ひらひらと手を振って、藤真の背中を見送った。

教室から出て行った藤真はきっと体育館でバスケの練習だろう。

「花形ーーー!!!」

と廊下に藤真の声が響き渡っていた。



「お隣いいですかー?」

ニヤニヤと笑いながら、友達2人が近寄ってきた。

いつも藤真がいなくなってから、現れる。

「どうぞー」

「今日はどうだった?」

はい、とぽっきーを差し出されて一本もらう。

ぱきっ、と音をたててぽっきーを食べた。


「今日はーピーマンとインゲンがばれた」

「あー緑の野菜って味強いもんね」

「ていうか、料理上手なのに藤真君よくわかるよねー」

「なんか味覚だけは俺すげーんだ、とか言ってた」

「あーやっぱ王子だからいいもの食べてんのかな?」

「・・・王子関係なくない?」



小さい時から料理が大好きで、あたし自体好き嫌いはない。

もうこれは挑戦だと思って受けて立ちます。

絶対藤真の好き嫌いを無くしてやる!!













***











放課後。
友達の用事が終わるのを待つまで図書室へ行った。
ぱっ、と目に入った料理の本。
料理自体は大好きだから、ついつい手に取ってしまう。
パラパラとめくって、手を止めたページはニンジンを使った料理。

(たしか藤真ニンジンも嫌いだったよなー・・・)

明日はどうやって食べさせてやろうかと考えると
自然と笑みがこぼれる。


「なーにニンジンのページ見て笑ってんだ」

「!」


まさかこんな所で会うなんて夢にも思わない人物がそこに。
振り返るとTシャツ姿の藤真がいた。

「え、藤真、何、してんの?」

「おれ?バスケ」

「いや、バスケしててなんで図書室?」

「ああ、タオル取りに来たらお前が図書室にいるの見えたから」

「ふぅん」

「したらニンジンのページ見て笑ってるし」

「明日はニンジンをどーやって藤真に食べさせようかなって思って」

「ニンジンとか絶対わかる」

「まぁ楽しみにしててよ」


そう言って、にか、と笑って見せた。
すると、藤真もまぶしいほどの笑顔を返してきた。

相当心臓に悪いと思う。


「の弁当食うようになってから、体ちょーしいいんだ」

「へ?」

「やっぱ野菜ってすげーなー」


と、言いながら藤真は出口の方歩きだした。
そして出口手前で、またこちらに向き直った。

「!」

「?」

「野菜がすげーんじゃなくて」

少し離れたところにいるから、きっと少し大きな声で喋っているのだろう

藤真の声が図書室に響く。


「お前がすげーんだな」


ときめくには十分だと思う。

































「藤真ー・・・あれ?」

次の日の昼休み。
いつも向こうからお弁当の催促に来るのに今日は中々来なくて
きょろきょろと教室を見渡す。
が、藤真がいない。

あれ?今日ちゃんと来てたよね?

だって休み時間もちょっと喋ったし。

「ねぇ、藤真見てない?」

「えっ、見てなかったの!?」

「は?何を?」

「王子、さっき呼び出されてたよ!」

「先生に?」

「そんなわけないじゃん!女の子に!」

「!」


女の子に、呼び出されてる。

ってことは・・・


「告白とか・・・されてるのか、な?」

「どーだろうねぇ」


んー、と小さく唸って考えてる友達を余所に
持っていた2つのお弁当箱をぎゅ、と握りしめる。

藤真が告白されて

その告白を受けて

お付き合いが始まってしまったら


もう、お弁当作ってあげるとか


できなくなっちゃうんだ。


心が重たくなって、暗くなる。

なんで、こんなに落ち込んでるんだろうとか

いろいろ今から考えるって時に





「ー!!」

後ろから大きな声で呼ばれた。

「・・・ふじま」

「わりぃ、ちょっとやぼ用。弁当くれよ」

「・・・はい」

「・・・なんだよ、今日は大人しいじゃねぇか。弁当なんか失敗したのか?」

藤真が喋りながらお弁当箱を開く。
そしてお箸を持って、ぱん!と手をたたく。

「・・・見た目全然いつもどうりじゃん。いただきます」

がつがつとすごい勢いでお弁当がなくなっていく。

あたしはそれを横でじっ、と見つめていた。

「? 食わねーの?」

「・・・食べるけど」

「お前大丈夫か?」


藤真の左手が、あたしの額に触れる。

どきっ、と心臓が跳ねた。

ホント、死ぬんじゃないかと思った。


「だ、いじょぶ!」

「無理すんなよ」


そう言って、止めていた手をまた動かして

藤真はお弁当をすべて、たいらげた。


「あーうまかった。ごちそーさん」

「・・・藤真」

「ああ?」

「ニンジン、気付かず食べたね?」

「はぁ!?どこにいたよニンジンが!!?」

「秘密。やったねーニンジンも攻略できたね」

「マジかよ。なんかすげーけど。悔しい・・・」


悔しそうな藤真の顔が可笑しいやら嬉しいやら。

藤真はいつものようにお菓子を置いてバスケしに行ってしまった。

色々思うところあったけれど

藤真の食べっぷりを見てたら忘れてしまって。

今日も放課後に図書館室で料理の本でも見るかと

自分のお弁当箱を広げた。






















***


























放課後。

2冊料理の本を取って明日はアスパラだな。

と心中で思いながら、本を見る。

すると小さな声で自分の名前が聞こえた。

一瞬気のせいかとも思ったが、ゆっくり本から目線をはずしてその方向を向く

すると、2人の女の子と目があった。が、すぐに反らして

またこそこそと話を始めた。



「・・・あれでしょ、さんて」

「そーそー、藤真くんにお弁当作ってるっていう」

「付き合ってもないのに」

「付き合ってないのにお弁当作ってくるってさ」

「なんかお母さん的な?」



小さく笑い声が聞こえる。

でも

たしかに、

付き合ってなくて

でも、お弁当作ってて

藤真の嫌いなもの攻略していって・・・


きっと藤真はあたしのことを恋愛対象になんて見てないし

それだったら、

たしかに、

彼女たちの言うことは、なんていうか



大当たり。



なんだけど





わかってはいたけど。

言われてみると、結構つらいものがある


(てか、あたし藤真のことやっぱり好きだったんだなぁ・・・)


それをずっと気付かないふりをしてて

気づかされてしまった今、ずしん、と重くなる心。


(落ち込むってわかってたから、考えないようにしてたのに・・・)


ちょっと涙が出そうになったから

持っていた料理の本で顔を隠した。

早く、早く、涙引っ込めて帰ろう。




そう 思った瞬間。




「!」




昨日と同様、後ろから藤真の声がして

あたしが振り返るまでもなく、藤真が隣に座った。


「え、え?ふじま?」

「なーに泣きそうな顔してんだよ。玉ねぎのページでも見てた?」

「違っ!」

「言っとくけど、おれ玉ねぎも嫌いだからな」

「知ってる・・・」

「あ、おれさ、50メートルの記録伸びたんだ」

「へ?え?すごいじゃん・・・。てか元々部内では1番だったよね?」

「そ、だから新記録」

「そっかーやったね」

「おー、マジお前のおかげ」


昨日に引き続き、ときめくこのセリフ。

無意識なのかなぁ。

昨日はきらきらにときめけたケド

今はちょっと、素直に喜べない。


「なーに言って・・・」

「やっぱ、俺の彼女になるならこーでなくちゃな」

「・・・は?」


びっっくりして、ばっ、と藤真を見る。

藤真はしれっと言った割に、顔が真っ赤で

Tシャツの襟元を持って顔を半分隠していた。


「ちょ、藤真、顔、赤・・・」

「お前も赤いだろ!」


2人でもじもじ言い合っていると、こそこそ話をしていた女の子たちが

顔面蒼白な顔で走り去っていくのが見えた。

そりゃそーだろうけど、あたしも結構同じくらい混乱してるんですけど。


「え・・・っと、ふじま・・・どーした、の?」

「は?何がだよ」

「何がって、何がって!その、今、の・・・」

「彼女?」

「そ、れ」


ただからかっただけとか

きまぐれとか

言葉のあやとか


そーいうのだったら、冗談にできないから止めてほしい。


と、思ってたのに


「お前、」

「へ?」

「おれのこの顔見て、じょーだんだとか思うわけ?」


この顔、とは。

さっきから少しも引いてない赤み

余裕ぶってるけど

本当はどこにも余裕なんて見当たらなくて。

「・・・思わない」

きっと、自分の顔も赤いんだろうけど

藤真の顔は耳まで真っ赤で

面白くって笑ってしまった。





























「ていうか、なんなのこのタイミング?」

少し落ち着いて、

明らかに勢いで告白されたような気がしてならなかったから聞いてみた。

「・・・花形が」

「花形くんか?」

「オレとは付き合ってんのかとか聞いてきて」

「うん?」

「なんでだって聞いたら、隣のクラスのやつに聞かれたって」

「・・・で?」

「なんかオレが、お前の弁当美味いって言いふらしてんの聞いたらしくて」

「言いふらしたの・・・?」

「そしたらその男が、料理上手い子が好きとか言ってるやつで」

「・・・うん」

「したら花形が」

「花形君が?」

「もたもたしてたら、取られちゃうぞとか言うから」

「・・・なにそれ」

「したらなんか、早く言わなきゃって」

「よく、図書室いるのわかったね?」



「・・・昨日、弁当のおかず考えててくれてんの嬉しかったから」

「今日も、居てくれたらいいなって思って来たら、居た」



藤真がまっすぐこっちを見て微笑んだ。

それだけでもう眩暈とか起こりそうな勢いなんだけど。


「ふじま」

「ん?」

「あたし、藤真の嫌いなもの知ってるけど」

「おう」

「好きなものも知ってるから」

「・・・うん?」

「明日は、藤真の好きなものばっかりのお弁当作ってきてあげるよ」

「マジで!!?」

「うん」

「やっべ。超楽しみ!」


両手をあげて喜んだのかと思ったら

あげた両手で、がばっと包み込まれてしまった。





「明日からずっと、の飯食えるとかマジ幸せ」










抱きしめられて、初めて呼ばれた名前を

耳元でささやかれた。

藤真はどうやらあたしを殺す気らしい。


















(おい花形!はもう俺のだってその男に言っとけ!)
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